年金の伸びを賃金や物価の伸びよりも抑える「マクロ経済スライド」が4月から発動される。現在、年金を受け取っている高齢者だけでなく、現役世代がもらえる年金も減らされる。将来的にどれだけ年金が減るのか。厚労省によると、「マクロ経済スライド」を43年ごろまで続け、厚生年金を現在の年金額より2割、国民年金を3割削減する方針という。

 将来にわたって厚生年金と国民年金がどれだけ減額されるのか。厚労省が昨年公表した、将来の見通しを立てる「財政検証関連試算オプションIII」のケースF~Hの数値を参考に、社会保険労務士でブレインコンサルティングオフィス代表の北村庄吾氏にシミュレーションしてもらった。

 すでに年金をもらっている世代の受取額からみてみよう。

 16年度の国民年金は15年度から月770円少なくなり、以降毎年、500~900円程度ずつ減らされる。

 5年後の20年は6万1534円で、3474円減額。36年には5万524円と、約20年間で1万4484円も少なくなる計算だ。

 次に厚生年金を見てみよう。現在10万円受け取っている人の場合、15年には9万8921円になる。5年後には、9万3634円、36年には7万6882円にカットされる。

 都営住宅に住む鈴木ヨシコさん(仮名・77歳)の場合、厚生年金基金と遺族厚生年金を除く、国民年金と厚生年金の約8万円がカットの対象。10年後には約7万2千円に減ってしまう。

「高齢者の受け取る年金はよく『もらいすぎ』と言われていますが、低年金の高齢者たちの生活が成り立つようにしなければ、生活保護を受ける人が増えてしまいます。現在、生活保護を受けている世帯の半数近くが高齢者世帯。年金をカットすれば、反対に生活保護費が増えて、社会保障費全体でみても負担が増えてしまうことが考えられます。年金制度を維持するためには、社会保障費全体で今後の年金をどうするのか考えるべきです」(北村氏)

 では、次に現役世代の会社員が受け取る年金を見てみよう。

 厚生年金のモデル世帯、夫の平均的収入(賞与を含む月額換算)が42.8万円で40年間働き、妻が専業主婦のケースの場合を計算してみよう。

 厚生年金は10万円、国民年金は夫婦合わせて13万円。厚生年金と国民年金を足すと23万円になる。これに、「マクロ経済スライドにより支給される率」をかける。

 65歳を迎えるのが今年であれば、23万円×98%で、22万5400円。5年後の2020年に65歳を迎える人は、23万円×93%で、21万3900円。現在よりも、1万6100円少なくなる計算だ。

 今後、少子化に歯止めがかからず、さらに年金加入者が少なくなるようであれば、スライド調整率は上がってくることも頭に入れておいたほうがいいという。

「将来的に厚労省は、現在65歳となっている受給開始年齢を、段階的に70歳まで引き上げることも狙っているでしょう」(同)

週刊朝日 2015年3月6日号より抜粋