今季プロ野球で大きな注目を集める松坂大輔。西武ライオンズ所属当時、監督を務めていた東尾修は松坂に3つのアドバイスをした。

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 各球団のキャンプ地を回ってきていたけど、気になるのはソフトバンクの松坂大輔だよな。これから記すのは、キャンプ中の現時点での話。彼が開幕までに上昇するか。それによって、シーズンの結果は大きく変わるから、そのことを念頭に置いて、これからの話を読んでもらいたいと思う。

 キャンプ初日の2月1日に彼が報道陣シャットアウトでブルペンで捕手を立たせて投球を行った。私はその場に残った。西武入団1年目に監督と選手の間柄。彼なら許してくれると思ったし、久しぶりに彼の投球を目の前で見たかったからだ。一番奥のブルペンで投げていたが、私の存在を確認すると、一番私に近い位置に移動して投げてくれた。

 結論から言えば、投球の形にはなっていなかった。工藤監督、投手コーチもおり、多くのことを言う立場にない。それでも3点のことを言った。2011年に右肘の手術を行って以降、私が感じていたことだった。

(1)左足が遠回りに出る。
 この点については、彼自身が対策していた。今までは本塁に向かって正対する形でワインドアップに入っていた。それだと、どうしても左足を振り回す形で上げる状況が続いていた。「振り回して上げる=体をひねっている」ことになり、反動で左肩は早く開く。先に体が開けば右腕はついてこない。だが、彼は少し三塁ベース寄りに体を向けた形で振りかぶっていた。それなら、左足をスッと上げられる。

 
(2)右足の粘り。
 簡単に言えば、間を作るということ。打者目線で言えば「1、2、3」の単調なタイミングだと打ちやすい。「1、2の3」といった「の」の間を作る。そのために軸足である右足でしっかりと時間を作る。この間がないと、右腕が上がりきらないうちに踏み出した左足が地に着く。ソフトバンクの王貞治球団会長の一本足打法も軸足である左足に間があったことを引き合いにして話した。

(3)右肘を高く上げる。
 投手は右肘から出て、しなりを利用して投げる。だが、彼の右腕は棒のようになっていた。右肘から出て後から手が出てくる形をいかに作るか、そのために、肘が高い位置から出て後から手が出てくるようにしないと。指摘したのは右肩が背中方向に入りすぎている点。両腕を180度広げてみてほしい。両腕が180度以上開いてしまったら、肘を上げるのに苦労する。

 この三つはすべてが連動しないと駄目だ。ただ、5日のブルペン投球を見たときに少し改善されていた。右肘の手術から復帰して3年になる。ようやく肘の不安なく投球フォームを作れる状態になったのだろう。

 ブルペン投球でカーブを多投している。カーブは右肘をしなるように使える。大輔はマウンドより後ろから投げる作業も行っている。西武の1年目から言っていたことは「捕手のミットが終着点ではない。バックネットまで突き破るイメージを常に持て」ということ。プレートの後ろから投げることで球威を確認できる。私の当時の意見を、今も実践してくれていると思うとうれしいよ。

 あとは実戦の中で、二塁ベース方向からマウンドに上がってほしい。遠くから捕手が見え、実際にプレート上に上がったときに捕手が近く見えるから。そういった画面に映らない点にも着目したい。

週刊朝日 2015年3月6日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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