シニア向け化粧品(撮影/写真部・大嶋千尋)
シニア向け化粧品(撮影/写真部・大嶋千尋)

 最近、シニア世代の女性を狙ったメイク市場が活気づいている。資生堂や花王、カネボウ、コーセー、ファンケルといった大手化粧品メーカーが、50代より上が対象の新ブランドや商品を次々と打ち出している。資生堂がモデルに起用したのは女優の宮本信子さんと原田美枝子さん、花王はタレントの久本雅美さんを選んでいる。

 なぜシニアのメイク市場が過熱しているのか。考えられるのは、[1]2019年に日本女性の半数以上が50歳を超すこと(国立社会保障・人口問題研究所調べ)、[2]その世代の購入額が、2兆円とも3兆円ともいわれる化粧品市場の半分を占めていること、だ。

 花王の調査では、60代女性の1カ月の化粧品購入額は約1700円。30、40代との差はわずか百円程度で、しかも年々増えているという。つまり各メーカーは、今後シニア層が若い世代よりも明らかにお金を費やすことを見込んで、本格的に照準を合わせ始めたといえる。

 たとえば、これまでのシニア向け化粧品はスキンケアなどの基礎化粧品が中心だったが、最近はアイメイクや口紅などに力を注いでいる。これは、年を重ねても“ポイントメイク”を楽しむ人を意識した動きだろう。

 ちなみに、「アイラインや眉カットがスムーズに!」との宣伝文句でレンズが簡単に上げ下げできる老眼鏡も人気だ。

 さらに、各メーカーはパッケージでも使いやすさを追求する。今年1月発売の資生堂の新シリーズ「プリオール」は、アイシャドーなどのフタや開閉部分を赤い色にした。老眼や白内障などで視力が下がった人に配慮した形だ。石川由紀子ブランドマネージャーが解説する。

「業界は昔から黒一色のデザインでしたが、50、60代の消費者から『どこが開閉口か、わかりづらい』といった声が寄せられるようになりました。白内障の人にはグリーンやブルーが灰色がかって見えるため、色選びも工夫しました」

 シニア層のなかには老眼鏡を手放せず、メイク中に何度もかけ外しが必要になる人も多いだろう。その手間を省こうとしたのが、花王が3月に発売予定の「オーブ クチュール」のアイシャドー。ケースの内側には実物の2倍に見える拡大鏡がついている。ケースの側面の凹凸は、手がかさつくので滑るという悩みに応えるためだ。

 ところで美容業界のプロたちの話を総合すると、シニアの女性たちに共通する化粧の悩みは、2種類に大別される。

 第一は「加齢による肌トラブル」。しわや乾燥で皮膚がたるんでしまい、アイシャドーやアイライナー、口紅がうまく引けなくなる。

 第二は「化粧に対する知識や技術の乏しさ」。子育てや家事に追われた30、40代以降、化粧から遠ざかり、情報が更新されず、年齢不相応なメイクを続けてしまう。

 こうした事情を踏まえ、カネボウ化粧品美容研究所の高田夕美さんは、還暦を過ぎた人は自分の化粧のやり方を見直してほしい、と助言する。

「若いころの顔は、血色のよい頬はパーンと盛り上がり、目元もパチリと立体的。年を重ねると皮膚がたるみ、しわが増えてあご周りが重くなります。輪郭はぼやけ、のっぺり平面的になるんです。顔の土台が変わったのにメイクが昔のままではちぐはぐになりますよね」

週刊朝日 2015年3月6日号より抜粋