※イメージ写真
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 結婚式の記帳や会議でマイクを持つときなど、緊張する場で手が小刻みにふるえるという経験がある人は少なくないだろう。本態性振戦とはそうした手のふるえが普段の生活でも起こる病気だ。「たかがふるえ」「年のせい」と考える人もいるが、なかには極度のふるえのため、日常生活や仕事に支障をきたす人もいる。

 テレビコマーシャルや通販番組でモデルをしている山城よしのさん(仮名・71歳)が、手のふるえを気にするようになったのは、今から20年ほど前。「何かをしようとすると手がふるえる」「ふるえを止めようと思えば思うほど強まる」といった症状のため、洗髪や洗顔、料理や食事、字を書くことなどが満足にできにくくなった。

 10年ほど前に、仕事の際にディレクターから手のふるえを指摘されるようになったことから、近所の内科や脳神経外科を受診。甲状腺機能やMRI(磁気共鳴断層撮影)の検査などを受けたが異常がない。別の病気の可能性を調べるため訪ねた東邦大学医療センター佐倉病院神経内科で、本態性振戦と診断された。

 本態性振戦は、両手のふるえが主症状の病気で、じっとしているとき(安静時)には症状が出ず、食事や服を着る、字を書くといった単純な動作や、コップを持つなど姿勢を維持するときなどに、ふるえるのが特徴だ。緊張したり、ふるえを止めようとしたりすると症状が強まる。山城さんの主治医、榊原隆次医師は言う。

「この病気は基本的には高齢者に多い病気ですが、実は20代ぐらいで発症することもあります。原因はわかっていませんが、患者さんのご家族にふるえの症状をもつ人が多い。このことから遺伝性があると言われており、原因遺伝子も報告されています」

 ふるえそのものは、運動をした直後や緊張したときなどにも起こる。これは生理的振戦と呼ばれ、病気ではない。榊原医師は、ふるえという症状があまりにも一般的なため、生活に支障があっても医療機関を受診しない潜在患者が少なくないと推測する。実際、前出の山城さんは、症状に悩みながらも10年以上病院を受診することはなかった。

「本態性振戦は良性の病気で、命にかかわることはありません。しかし、QOL(生活の質)を下げ、外出できなくなる、人と会えなくなるといったことで、苦痛をもたらす病気です。治療が可能な病気なので、心当たりがある方は、医療機関で診てもらうといいでしょう」(榊原医師)

 治療は、薬物治療から始めるのが一般的だ。血圧を下げる薬であるβ遮断薬や、一部の抗てんかん薬が本態性振戦に有効で、薬の一部は健康保険が使える。

週刊朝日 2015年3月6日号より抜粋