奨学金は励みに…(※イメージ写真)
奨学金は励みに…(※イメージ写真)

 昨年11月、鹿児島県伊佐市の県立大口(おおくち)高校が、難関大合格者へ支給する奨励金制度を発表した。定員割れが続く同校に対し、同市が地域衰退を防ぐために決めたものだ。しかし、これが全国的に報じられると、「お金で釣る教育」などという批判が噴出した。有名な教育評論家がテレビで「史上最悪の愚策」と酷評して話題にもなった。

 一方、市民はどう受け止めているのだろうか。

 旧薩摩大口駅から徒歩3分ほどの場所にある松山紙店の田中浩太郎さん(47)は、約20年前にUターンし、文房具店を継いだ。

「夏祭りのときの子どもの少なさに衝撃を受けました。私が子どものころには、店の前の通りは人が多かったし、夏祭りは賑わっていた。支援策について不満な人もいるようですが、何もしなければ20年後には高校もこの商店街もなくなっているかもしれない」

 大口高校同窓会の副会長も務める田中さんは、大口高校のさまざまな取り組みをもっとPRしていくべきだとも言う。

 宮原スポーツの宮原弘通さん(48)も、定員割れに対して危機感を募らせている。

「店を継いだ91年ごろは、部活動をしている中学生や高校生がお客さまのメインでしたが、ここ数年は特に中学生や高校生が減りました。現在はグラウンドゴルフなど高齢者向けスポーツの用品が売れています」

 大口高校の生徒がボランティアに訪れている障害者施設を運営する社会福祉法人大一会の折田博幸事務長(56)は、こう話す。

「夏祭りやサマーボランティアなどで、市内の中学生や高校生が来てくれるのを、入所されている方たちはとても楽しみにしています。ボランティアに訪れた生徒さんのなかで地元志向が強い人の就職先にもなっています。地域が活性化するので、高校生は多いほうがいいです」

 同校2年の進学クラスの女子2人にも話を聞いた。2人とも30万円の奨励金をもらえる大学への進学を希望しているという。

 時田雛姫(ひなき)さんは、

「奨励金は励みになります。それと(12月に導入された)予備校の先生の特別講義はわかりやすくて、いい復習になりました。費用がかからずに予備校の授業を受けられるのはありがたいですね」

 と笑顔を見せた。

 柱野立帆(りほ)さんは、予備校講師による授業はおもしろくて、90分間ずっと集中できたという。

「単語の覚え方や勉強法まで教えてもらえたのがよかったです。今年の4月から市内にある四つの中学校のうち3校が統合され、私の母校がなくなります。高校までなくなるのは寂しいから、大口高校はずっと存続してほしい」

(庄村敦子)

週刊朝日 2015年3月6日号より抜粋