安倍晋三首相の施政方針演説を聞いた作家の室井佑月氏は、国民の安全をどうするのかきちんと教えて欲しいという。

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 安倍首相は12日午後、国会で施政方針演説を行い、冒頭からイスラム国の人質殺害事件について語った。

「テロ行為を、断固非難します。日本がテロに屈することは決してありません。水際対策の強化など、国内外の日本人の安全確保に、万全を期してまいります。そして食料、医療などの人道支援。テロと戦う国際社会において、日本としての責任を、毅然(きぜん)として、果たしてまいります」

 そして、「この道しかない」とつづけた。

 テロを断固非難し、テロに屈しないというのはもうわかった。けど、テロ組織に狙われる、国内外の日本人の安全はどう保つの? 日本の首相として、いちばんにそこを教えて欲しかった。

 てか、安倍さんの選択により日本人の危険は高まったわけじゃん。その説明は重要だろう。いつの間にか、危ないテロ集団の敵として指名されちゃったんだしさ。

 日本としての責任というものが、「国際的に正しいことをしていく」というものだとして、「卑怯なテロは許さない」、そう堂々と表明したというならまだ理解できる。けれども、だったら、イスラエルと共同で武器開発する方向で動くことにどう正義があるのかわからん。

 結局、日本としての責任とは、アメリカに逆らわないことなんじゃないのか。金出して有志連合のメインメンバーにしてもらって、その見返りとして、どのような対価があるのか? 具体的にあたしは知りたいな。

 だって、命も金も差し出さなきゃならないのはあたしら国民で、まさかうちらにそれに見合った対価がないっていうんじゃ話にならない。今のところ、金を出して、命の危険度がアップしただけだ。が、国をあげた議論に発展せず。野党はボケボケしてるしさ。

 みんな、「この道しかない」っていう言葉で納得か? あたしには「この道しかない」って言葉は、不気味な号令のように聞こえるけどな。

 NHKが2月6日から8日にかけて行った世論調査によると、安倍内閣の支持率は1月調査よりも4ポイント高い54%だったという。逆に不支持率は3ポイント下がった29%。

 なぜだ? 待てど暮らせどアベノミクスで庶民に恩恵が下りて来ない、今のところ安倍さんの行動により他国を悪いふうに刺激してばかり、金をうんとバラまいているが、それで日本がすごく得したという情報はまだ聞いてない。

 5月に安倍さんはオバマさんに会いにいくらしいから、そこでなにか約束でもしてきたら、もうマジで後戻りできっこない。「この道しかない」のかも。

 安倍さんの勢いは止まりそうもないし、この国を出ていくなんてこともできないなら、思考を停止させ号令で動けるような人間に、自分を変えなきゃならないのかしら。どうせ、死ぬときは死ぬんでしょ、みたいな感じに。それってどうなの? とも思わない。……終わったな。

週刊朝日  2015年3月6日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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