西武ライオンズでエースとして、そして監督も務めた東尾修氏は今年のキャンプを見て「正直、物足りなかった」と評する。

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 前回、本誌のコラムでは、昨年日本一になったソフトバンクを紹介した。選手に覇気があって、ファンの数の多さも手伝って本当に活気があった。野球評論家として、長年、各球団のキャンプを回ると、チームの雰囲気の違いを痛いほど感じる。キャンプの活気がシーズンの成績につながる部分も多い。

 その意味で、ソフトバンクの大きなライバルとなるオリックスは、明るさとともに、各自の競争という厳しさもあった。何十億円もの費用をかけて戦力補強したフロントの意気込みは、しっかりと現場に伝わっている。日本球界に復帰した中島裕之とも談笑したが、生き生きとしていた。内野手のリーダー的な存在として、よく声も出ている。

 ブルペンも本当に勢いがあった。オリックスは先発陣だけではなく、中継ぎ、抑えとなるにしたがって、球が速い投手が出てくる。ブルペンでも、若手も含めて本当に球威のある投手がいる。強いチームのブルペンだった。森脇浩司監督と話をした。昨年5月から出てきて8勝を挙げた左腕・松葉貴大のように、シーズン途中から出てくる投手をいかに見抜くか。楽しみな投手がいる場合の使い方など、私にも聞いてくれた。

 ソフトバンクの工藤公康監督も同じだ。主力は故障にさえ気をつければ開幕には合わせてくる。監督としてキャンプ中に、若い才能をしっかりと頭にたたき込み、一番いい時期に使ってあげることが大事だ。主力に穴が開いたとき、その穴を埋めるのは誰なのか。優勝するチームは必ずバックアップ要員が控える。そのための準備は今から始まっている。監督の起用法も1勝の差を生むからね。優勝を狙うチームは監督の目の付けどころが違うよな。

 その2球団の視察の後に古巣の西武に行ったが、正直、物足りなかった。1日ですべてを判断することはできない。だが、声が出ていない。

 私が南郷キャンプに到着した時、ちょうどバントシフトの練習中だった。投手が何人かマウンドにいて代わる代わる投げ、野手がバントする練習で守備隊形などの確認を行う。若い投手は自分の番の合間にキャッチボールをしていた。しかし、ミスが出た時の「声」が足りないのだ。

 若い投手が、2球連続で暴投した。バントをさせようとして、ストライクが入らなければ話にならないのに、誰もそれをとがめない。バントがファウルになっても同様だ。私が現役のころは、石毛、辻、清原といった内野陣がミスにうるさかった。若い投手が暴投したら、それだけで緊張感が走った。練習からミスに対して厳しくならなくては、本番の勝敗を分ける場面で自信を持てるはずがない。

 内野陣にリーダーがいない。田辺徳雄新監督はじっくり腰を据えて見る立場だが、コーチ陣も、練習を止めてでもミスを指摘する姿勢がほしい。特に経験豊富で、強い西武時代を知る、内野守備走塁コーチの奈良原浩、外野守備走塁コーチの河田雄祐の2人が、口うるさくなることだ。新任であったり、経験の浅いコーチが多いからこそ、の注文である。

 西武は昨年5位に沈み、優勝したソフトバンクとの差は16ゲームあった。日々の練習で、一つのプレーにこだわり、短い時間にどれだけ集中できるか。その積み重ねができなければ、今年はもっと大きな差が出てしまうよ。

週刊朝日 2015年2月27日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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