忌野清志郎(c)朝日新聞社 @@写禁
忌野清志郎(c)朝日新聞社 @@写禁

 2009年5月2日に他界した忌野清志郎のライブ映像を集めた映画「忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー The FILM ~#1入門編~」が2月10日から全国公開されている。08年に武道館で行われた「忌野清志郎 完全復活祭」と同じ日だ。いま世界中で報復の嵐が吹き荒れる。そんな時代だからこそ彼の歌を聴きたい。歌舞伎役者の中村獅童が彼との思い出を明かす。

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 2004年、僕が初めて座頭を務めた新橋演舞場の「丹下左膳」に清志郎さんにゲストで出ていただいたんです。僕は昔「笑っていいとも!」に清志郎さんが丹下左膳のコスプレで出ていたのを覚えていて「絶対、丹下左膳が好きなはずだから」と、面識がないのにお願いした。そうしたらまず公演を観に来て楽屋に来てくださって、ご本人が「出る」って言ってくださった。「出る。けど、花道歩きたい」って(笑)。

 興奮しましたよ。もともと僕はRCサクセションの大ファン。中学時代にロックに目覚めてバンドもやって、すごく影響を受けました。そんな方が気持ちよく「いいよ、出るよ」ってOKしてくださったんですからね。舞台では最後に二人で「雨あがりの夜空に」を歌いながら花道を引っ込みました。二人で丹下左膳の格好をして。

 そのあと清志郎さんが06年の「新ナニワ・サリバン・ショー」で逆に僕にオファーをくださったんです。「なんでも好きな曲歌っていいよ」って言われたので、「『キモちE』歌いたいです」って。ド派手な衣装でステージに出ていったら「オレより目立つんじゃねえ!」って言われました(笑)。二人でセンターステージを歩けて気持ちよかった。たぶんあれは演舞場の花道の「お返し」みたいなものだったんじゃないかな。清志郎さんから「前、行こうぜ」みたいなアイコンタクトがあったんです。

 ステージではめちゃくちゃ楽しかったけど、会話はあまりできなかったですね。お会いするとやっぱりシャイな方で、2回くらいしか目が合わない(笑)。だいたい僕自身、人の楽屋に行くことが苦手だから、たぶん清志郎さんもそうだったんだろうなと、自分がそうだからよくわかるんです。僕もけっこう引っ込み思案なんですよ。だから舞台では派手なコスプレして「そういう自分を演じている」のかもしれない。清志郎さんも“ロックンロール清志郎”をどこかで演じていたのかなと思います。

 僕、お通夜も告別式も行ってないんです。どうしても「いなくなっちゃった」と思いたくない。いつか心の整理がついたらお墓参りに行こうと思っています。

週刊朝日 2015年2月20日号より抜粋