福士誠治は20代のときよりも、30代を迎えた今のほうが、未来を“楽しいもの”として感じている瞬間があるという。19歳でドラマデビューし、NHK朝の連続テレビ小説「純情きらり」に出演したのが22歳のとき。最初の10年間は、なぜ俳優をやるのかなど、考える余裕はまったくなかった。

「世の中に、役者ほど、将来が保証されていない仕事ってそうはないんじゃないかと(苦笑)。どんな仕事ももちろん大変だと思うけれど、この世界ではとくに、“生き残るぞ”という強い意志を持っている人しか続けられない。役者になって10年経ってあらためて、自分の中に“役者でありたい”、もっと大きく言えば、“表現者でありたい”意志が強くあることを確認できたんです」

 表現者として“成長したい”という思いは人一倍。でも、役者仲間とはよく、「坂道のように右肩上がりに成長することって、あんまりないんじゃないか」などと話したりする。

「作品に取り組んでいる最中は、メンタル的なことも、技術的な部分でも、正直、現状維持が精いっぱい。でもある出来事によって、トンッて、まるで階段を一段上るように、よくなる瞬間がある気がする。その起爆の分岐点になりうる可能性が高いのが、僕にとっては舞台です。今回、清水邦夫さんの戯曲(『狂人なおもて往生をとぐ』)に挑戦すると決まったときも、家族を扱いつつも、内にあるテーマがあまりに壮大に思えたし、社会背景も僕の育った時代とはかけ離れていて、わからないことだらけ(苦笑)。でも、稽古を重ねることで、大きな波がやってきて、今は面白いと感じられるようになりました」

 2008年からは、時代劇で共演した波岡一喜さん、大竹浩一さん、斎藤工さんと組み、演劇ユニット「乱─Run─」を結成。「作り手としての気持ちを味わいたい」と、出演のみならず演出を担当することも。昨年末から年始にかけ、下北沢の本多劇場で芝居を上演したばかりだ。

「実験的なことに挑戦したいと思ってはいるものの、毎回、かなり苦労するんですよ(苦笑)。モノづくりって簡単ではないな、と痛感します。とはいえ、公演期間中は仲間内での笑いが絶えないほど、楽しい現場でした。それが、『狂人~』の稽古では、徹頭徹尾シリアスにならざるを得ない。ギャップが大きいんですけど、気持ちの変化を味わえていることが、表現者としてはすごく恵まれているなと感じています。面白さって、単純に笑えているときだけに感じられるものじゃないから」

 キャリアを重ねるうちに、苦しいことも、シンプルに楽しいことも、どちらも大切に思えるようになった。

「20代の頃は、『30までは苦労しよう』と思っていた。それが最近は、『40までもっと恥をかこう。もっと笑われよう』って(笑)。役者は、ずっと下積みだと僕は思うので、死ぬまで笑ってもらえたら本望です」

週刊朝日 2015年2月20日号