国会の集中審議に臨む安倍晋三首相 (c)朝日新聞社 @@写禁
国会の集中審議に臨む安倍晋三首相 (c)朝日新聞社 @@写禁

 13日から始まる安全保障法制に関する与党協議では、邦人の救出も含めて自衛隊がどこまで海外で活動できるのか、どのような武器が使用できるのかが話し合われる。後藤健二さんの死をきっかけに、専守防衛を基本とする日本の防衛戦略が大きく変化しようとしている。

 目出し帽で顔を隠した自衛隊の特殊部隊が、テロリストのアジトに奇襲をかけ、派手なドンパチの末に人質を奪還する――。日本にも陸上自衛隊の特殊作戦群、警察のSAT、海上保安庁の特殊警備隊など特殊部隊がある。

 だが、現実は甘くない。かつて内閣官房副長官補として安全保障を担当した柳澤協二氏は、こう述べる。

「外国での邦人救出と保護を目的として、警察権の下に自衛隊を出動させるのなら、憲法上のハードルはない。しかし現実的にはありえない話です。映画の見すぎですよ」

 安倍首相の前のめり発言には、自民党内からも異論が出ている。

「邦人救出なんて無謀。自衛隊が現地に救出に行っても、ただ人質を増やすだけ」(自民党の元閣僚)

 相次ぐ批判に、安倍首相も自衛隊が海外で人質救出することの難しさを認めている。

 なぜ、人質の救出は困難なのか。軍事ジャーナリストの田岡俊次氏は言う。

「まず、場所を特定するのが難しい。偵察衛星や無人偵察機、世界的盗聴網を持つ米軍でも、オサマ・ビンラディンを捜すのに10年かかった」

 場所がわかったとしても、作戦成功の可能性は低い。

「11年5月2日に、米海軍特殊部隊がビンラディンの隠れた邸宅を急襲して射殺しました。この作戦は、本人と護衛兵を同時に殺してもいいから、難しくはない。一方の人質救出は、警備兵を制圧しながら、人質だけを無事に連れて帰るのが任務。その難しさと危険度はビンラディンの急襲作戦の比にならないほど高い」(同)

 紛争地の現場で活動をするNGOにも、不安の声が広がっている。日本国際ボランティアセンターの谷山博史代表理事は言う。

「私たちの仲間が武装勢力に拘束されたら、最初にやることは、地元の治安部隊や軍隊に『突入作戦はやめてくれ』とお願いすること。奪還作戦の難しさは、過去の経験でわかっている。人質の解放で成功するのは、九分九厘が交渉によるものなのです」

週刊朝日 2015年2月20日号より抜粋