世界的企業でも一瞬で倒れることのある今の時代、新しい市場を切り拓く“スモールビジネス”に注目が集まっている。そんななか、以前から独自の問題意識によって社会に伏在するニーズを掘り起こしてきたのは、「こぐま会」だ。

 大志は人を動かす。「幼児教育から日本の教育を変え、社会を変えたい」と言う人がいる。

 東京都内で幼児教室「こぐま会」を運営する幼児教育実践研究所の代表取締役、久野泰可さん(66)である。

 東京駅前にある書店の丸善で教材売り場をのぞくと、「こぐま会」と表示した棚が一角を占めている。紀伊國屋書店でも同様だ。10年前くらいから売らせてほしいという書店が現れ、買い取りを条件に全国約200店に直接卸している。

 久野さんの幼児教育は、英語や算数などの教科の早期教育ではない。例えば円錐や円柱などの立体や積み木を子供たちに見せたり触らせたりする。また粘土で同じ形を作らせる。

 まるで遊びのようだが、形や大きさ、数の概念を自然に理解させる。久野さんはこれを「事物教育」と名付けた。また、絶えず語りかける「対話教育」も重視する。自分の考えや気持ちを伝える能力を自然に育むことができるという。これらの実践と理論を「KUNOメソッド」としてまとめている。

 もともと教育学の研究者を志望して大学では教育学部に入ったが、「教育者は、大学の先生を頂点に序列ができていて、幼稚園の先生は一番下で何も発言できない」ことを知った。

「これを引っ繰り返さなければ」と決意し、72年に指導教授の呼びかけで幼児教育の実験教室に加わったのが発端だ。

 しかし幼児に何をどう教えればよいのか、悪戦苦闘の日々だった。やっと現在のメソッドを独自に確立し、独立して「こぐま会」を始めたのは86年である。目的は、子供が小学校に入って抵抗なく学べるための「教科前基礎教育」である。

 意外なのは、これが小学校受験にも効果的で、有名私立小学校にかなりの数の子供たちを入れている。

 近年は、海外展開も広げており、香港、韓国、中国・上海、ベトナム、インドでKUNOメソッドを導入する幼児教室や幼稚園が増えている。

 現在、生徒数は国内約400人に対して海外はざっと8500人にも上るという。

「米国にも出て、幼児教育の重要性を世界に発信したい」と、久野さんは考えている。

「最近、幼児教育に政府も注目し始めましたが、中身の議論が抜けています。小学校の教科の前倒しではマイナスです。子供の理解力を培う適切な幼児教育に国を挙げて取り組むべきです」と訴える。

週刊朝日 2015年2月13日号より抜粋