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 作家でコラムニストの亀和田武氏が、深夜ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』のすごさについて語る。

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 テレ東、深夜ドラマの話です。『山田孝之の東京都北区赤羽』。テレビ東京の深夜枠は、他局と比べて制約がはるかに少ない。冒険作、実験作もあるし、ぐずぐずの愚作や凡作にも事欠かない。

 しかし今期の金曜深夜は、ドラマの枠を逸脱している。一見の価値あります。そうPRしたくてウズウズしてるとき、「週刊SPA!」(扶桑社)1月27日号の<エッジな人々>の記事が目に飛びこんだ。題して“山田孝之が赤羽で一夏を過ごした理由”。

 映画『己斬り』の撮影中に、山田は役にのめり込み、真剣を使わねば演技できないとまで主張して、撮影は中断。そんなとき、赤羽の個性的な住人を描いたマンガと出会い、移住を決める。

 赤羽で暮らし、自分の軸を作る姿をドキュメントで撮ってくれと頼むのだから、並の役者ではない。朝ドラ『ちゅらさん』の面影はどこにもない。

 赤羽の生活を「自分を見つめ直すのにはいい環境でしたね」と語る山田は、まさしくエッジな人だ。「ただ、僕はですね、『本当にこれを放送していいのかな?』っていう迷いはあったんですよね」

 ドラマじゃなくて、実生活を晒すんだから。「俳優としての苦悩みたいな、そういう舞台裏は、本来、人に見せるべきではないんじゃないかなって」。彼は昨年、舞台『フル・モンティ』で、3万人の観客の前で全裸になった。でも「正直、『見せる』という意味では、今回のほうが恥ずかしいです」。

 過剰で正直。とことん演技にこだわる役者馬鹿だ。居酒屋で怖いオヤジに、「オマエ、明日からこの街に住むって、赤羽をナメてんじゃねえヨ」とすごまれても、素直に自分の思いを涙目で語る山田君の一夏を見てほしい。

週刊朝日  2015年2月13日号