西武ライオンズのエースであり、監督だった東尾修氏。今季日本球界に復帰する二人の元メジャーリーガーをこうみる。

*  *  *
 松坂大輔が国内復帰してソフトバンクに入ったのに続いて、広島に黒田博樹が戻った。黒田はメジャーでの年俸20億円を超えるオファーを蹴って復帰した。松坂は今年が勝負の年と位置づけ、黒田も「メジャーで2桁勝利できたから日本でも」と簡単に考えてはいないようだ。2人の真剣な顔つき、言動を見ると、日本球界への覚悟の復帰であることがうかがえる。

 日米通算で松坂は164勝、黒田は182勝。200勝に届くのかどうか。野茂英雄は日米通算200勝を米国で達成したけど、メジャー日本人投手で日本復帰後の大台到達はいない。名球会の理事をやっている身として、若くて生きのいい投手がそろそろ名球会入りしてほしいと思って、もう何年が過ぎたかな。

 先発、中継ぎ、抑えと投手が完全分業制となった。先発の登板間隔もキッチリととるようになった。野球ファンなら誰もが、先発投手が勝ち星を重ねることが、以前と比べ格段に難しくなったと感じるだろう。

 でも、その上を行く投手が出てきてほしいと願う。2013年の楽天田中将大(現ヤンキース)は24勝0敗という金字塔を打ち立てた。試合の勝敗が決するまでマウンドに立っていた。エースとはそういうものだ。「7回まで投げれば合格点」と自分を納得させたら、その先の成長はないよ。

 
 近年、投手の評価を示す指標は勝利数よりも防御率だったり、WHIP(1イニング当たりに出した走者の数)などに変わっている。だが、打線の援護が得られなければ0点に抑える、相手よりも先にマウンドを降りない──というのが先発投手の鉄則だ。全員野球だっていい。だが、先発投手が野球の主導権を握っている。もっと勝利にこだわってほしいとの思いが強い。

 野球道具が進歩し、打者の技術も上がって、先発投手が1試合にかけるエネルギーは、私が現役時代の比ではないだろう。だが、サプリメントなど多岐にわたる栄養摂取に加え、トレーニングも専属トレーナーを付けるなど格段に向上している。肉体面は進歩しているはず。なのに、20勝投手がなかなか生まれない。意識の部分で限界を設けてしまっているのかなと考えてしまう。

 巨人の原辰徳監督が昨年は投手陣に中5日を課しただろ。事あるごとに「相手よりも1点でも少なく抑えるのが先発の役目」と話していたのを聞いた。時代は変わっても、勝つために必要なことだ。200勝は「細く長く」ではなく「太く長く」といった活躍が求められる。2月からキャンプが始まるが、強い気持ちを持って取り組むことだ。

 3位までがクライマックスシリーズ(CS)に出られる今の制度。日本シリーズだけの戦いと違い、余裕があるチームは9月にエース級に無理をさせない。それも一つの方策だろうが、選手がそれに甘えては駄目だ。CS、日本シリーズも5試合前後投げて、年間230イニングくらい投げる投手にならないと、超が付く一流にはなれないよ。

 黒田と松坂は米国の100球前後の球数制限の中で投げてきたが、勝利に対する闘争心はずば抜けたものを持つ。今の日本の投手に足りないものを見せてほしい。名球会の後輩がほしいとの思いだけで言っているわけではないよ。日本球界の未来のために、2人には生きざまを見せてほしい。

週刊朝日  2015年2月6日号

著者プロフィールを見る
東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

東尾修の記事一覧はこちら