伊賀忍者 阿修羅(撮影/写真部・岡田晃奈)
伊賀忍者 阿修羅(撮影/写真部・岡田晃奈)

 忍術書「萬川集海(ばんせんしゅうかい)」に「その功、天地造化の如し」とあるように、忍者は正体を隠し通したが、その歴史は今も継承されている。忍者・忍術に造詣の深い川上仁一(かわかみ・じんいち)氏をナビゲーターに、伊賀忍者の子孫・伊室春利(いむろ・はるとし)氏と伊賀忍者の末裔・伊室春利(いむろ・はるとし)氏と甲賀忍者の末裔・渡辺俊経(わたなべ・としのぶ)氏が知られざる歴史の裏側を語った。

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川上:伊賀甲賀が対立していたとか世の中では言われていますが、とんでもない誤解です。伊賀忍者、甲賀忍者と分けて考えるものではありませんから。だからこそ、地域間の垣根を越えて、伊賀甲賀という地域が一体となり一つの忍者文化として伝えていけたらいいなと私は思っています。

渡辺:歴史的にも甲賀と伊賀はずっと仲良くやってきたはずです。甲賀衆の主君筋の六角家に、伊賀にいながら仕えていた伊賀の忍びもいたようですし。室町時代に六角家と幕府の間で起こった長享の乱の時などは、甲賀だけでなく伊賀の人も参戦しているようです。

川上:習得していた忍術、警護、治安維持などの仕事内容も両者とも一緒です。伊賀忍者、甲賀忍者と全く別個であるかのように言われているのも不思議に思います。

伊室:藤林佐武次保武(さむじやすたけ)がまとめた忍術書「萬川集海」にも最も大事なものとして「正心」と書いてあります。正しい心が大切なんですよね。大きな勢力と戦っているという事実はありますが、争いを起こさない、地域を守る、それは当たり前のことです。

川上:忍びの者は活動面だけを見ると反社会的に思われがち。でも、根底には当時の倫理観に基づいた正しい心があったんです。忍者や忍術には、日本人固有のものとして根底に「和の思想」があると思います。

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