中東の破綻国家を吸収し、増殖していくイスラム国の脅威

 イスラム国の日本人拘束事件は、周辺諸国や中東・アフリカ地域で今後も、日本人が同様の事件の“標的”になりかねない可能性を警告している。

 イスラム国の前身はイラク戦争後にイラクで生まれた「イラク・アルカイダ」だ。2004年に自衛隊撤退を求めて日本人旅行者を殺害した組織だ。それがシリア内戦に参加して肥大化し、昨年6月、イラクとシリアにまたがるイスラム国を宣言した。指導者アブバクル・バグダディは、“本家”アルカイダに挑戦するように「全イスラム教徒」に忠誠を求めた。

 イスラム国の特徴は、自己顕示的で過激な行動主義だ。フェイスブックやユーチューブ、ツイッターなどのSNSを駆使し、刺激的な映像とともに発信するメディア戦略。これは若者たちが街頭でデモを繰り広げ、「ツイッター革命」と呼ばれた「アラブの春」の特徴と重なる。

 エジプトで11年1月末に若者たちのデモが始まり、ムバラク体制が崩壊したとき、「もう、アルカイダの時代は終わった」と言われた。わずか4年前だ。

 いま、イスラム国から発信されるユーチューブ映像には武装した若者たちの姿があふれる。この間、エジプトでは軍事クーデターで民選大統領が排除され、リビアでは政治の混乱が続き、シリアでは最悪の内戦となった。自由や公正を求めた「アラブの春」の希望が裏切られ、若者たちの絶望や怒りから力を吸収して、イスラム国が肥え太ったように見える。

 もともとアルカイダの基盤だったアフガニスタン、イエメン、ソマリアは1990年代から政治が失敗し、経済も混乱する破綻国家だった。イラク戦争後にイラクが破綻し、「アラブの春」でシリアやリビアなどが、新たに破綻国家に加わった。そこに不満を持つ若者たちが集まる。イスラム国が過激派のセンターとなり、各地の連携が始まっている。昨夏、アルカイダ系組織で真っ先にイスラム国への忠誠を誓ったのは、13年1月にアルジェリア南部イナメナスでガス施設占拠事件を起こした「血盟団」である。事件で日揮関係者の日本人10人が犠牲になった。「血盟団」はマリからリビア南部などに影響力を持つ「北アフリカ・アルカイダ」から離れた組織だ。事件の後、登場したイスラム国に飛びついたようだ。

 リビア東部のアンサール・シャリーアや、エジプトのシナイ半島のアンサール・バイトルマクディスもイスラム国と連携を見せている。イスラム国の背景に、民主化の失敗や深刻な若者問題、格差などの地域の根深い問題がある。イスラム国を力でつぶしても、テロを世界に拡散させ、新たな過激派が生まれるだけになりかねない。イナメナス事件では日本人が標的にされたかどうか、判然としなかった。今回、日本は「(欧米の)十字軍への加担」と断罪された。危険なのは「日本敵視」が中東・イスラム世界で独り歩きしかねないことだ。日本政府の対応には国民の危機管理がかかっている。

(ジャーナリスト・川上泰徳)

週刊朝日  2015年2月6日号より抜粋

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