※イメージ写真
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 これまで露悪性に富んだ話題作を世に送り出してきた作家・遊川和彦氏。その最新作『◯◯妻』にドラマ評論家・成馬零一氏も注目する。

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 1980年代後半から活躍する遊川和彦は、近年、もっとも挑発的なドラマを書き続けている脚本家だ。

 転機となったのは2005年に放送された『女王の教室』(日本テレビ系)。この世は弱肉強食だと語り、教室を支配する謎の女教師・阿久津真矢(天海祐希)に小学生が立ち向かっていく学園ドラマは、児童虐待スレスレの内容が視聴者にショックを与えて抗議が殺到すると同時に注目を集め、最終話の平均視聴率は25.3%(関東地区)を獲得した。

 また、謎の家政婦・三田灯(みたあかり・松嶋菜々子)が訪れたことで起こる家族の崩壊と再生を描いた『家政婦のミタ』(日本テレビ系)は、最終話では平均視聴率40.0%(同)を記録。

 初の連続テレビ小説となった『純と愛』(NHK)では、朝ドラとは思えない腹立たしい登場人物と殺伐とした物語が激しい賛否を巻き起こした。不快なドラマをあえて見せつける遊川の作風は常に賛否が分かれるが、批判者すらも巻き込んでしまう抗いようのない求心力がある。

 現在、『家政婦のミタ』と同じ日本テレビ系の水曜夜10時枠で放送中の『◯◯妻』にも注目が集まっている。

 ニュース番組「News Life」のキャスターを務める久保田正純(東山紀之)は過激な発言が人気。そんな正純を支えるのが妻のひかり(柴咲コウ)だ。

 家事全般はもちろんのこと、あらゆる側面から献身的に尽くすひかりは、理想の妻として正純の同僚や親や姉に賞賛されていた。

『女王の教室』の阿久津真矢や『家政婦のミタ』の三田灯など、口数が少なく感情を表に出さずに何でも完璧にこなす機械のような女たちの物語を遊川は繰り返し書いてきた。

『◯◯妻』のひかりも家事全般を完璧にこなすが、一方で、正純の番組に有名小説家を出演させるために秘密を握り、隠し撮りした写真で脅迫するといった過激な側面も健在だ。また、今までの遊川作品に比べると、ひかりは“感情を見せる”人間的なヒロインである。

 正純の父(平泉成)が病気で倒れ、母(岩本多代)がきょうだいの間でたらいまわしにされそうになった時には、自ら義母を引き取ると名乗り出た。だが、実はひかりは、正純とは結婚をしておらず、契約書に従った共同生活を送っていた。その契約内容は「契約は3年ごとに更新する」「子どもは作らない」「それ以外は何でも正純の言うことに従う」「浮気もOK」というもの。6年前に契約を受け入れた正純だが、ニュースキャスターとなり生活も安定した今、そろそろ籍を入れて子どもも欲しくなり始めていたが、ひかりは契約関係を変えようとしない。

 なぜ、ひかりはそんな契約を交わすのか?という最大の謎がドラマを引っ張っていく。

 また、作中ではコンプライアンスという言葉が繰り返し登場し、同じ時間帯に『報道ステーション』(テレビ朝日系)が放送されていることもあってか、ニュース番組のパロディであると同時にテレビドラマ、より大きく言えば、“テレビ番組のあり方”への問いかけも見え隠れする。

 正純のニュースを見て、良いところと悪いところを的確に指摘するひかりは、遊川にとっての理想の視聴者なのだろう。過去作のような露悪性は控えめだが、それが今までとは違う不穏な気配を作品に与えている。

 愛と悪意の作家・遊川和彦の最新作がどこに向かうのか、注目である。

週刊朝日 2015年2月6日号