西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、キャンプ中の食事もチーム力向上の場であるという。

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 ここ数年、少しだけ気になっていることがある。それはチーム内の食事の在り方である。よく耳にするのは、チーム宿舎で用意された食事を食べる選手が年々減っているということ。そして若手選手などは20分くらいで食事を済ませ、部屋にこもってしまうことが多いようだ。特にシーズン中は大量に余って、これならば夕食はミールマネーみたいな形で選手個々にお金を渡したほうが良いのではという意見も聞く。

 だけど、どうだろう。2月1日から始まるキャンプでは、食事も一つのチームの一体感を増すコミュニケーションの場であると思う。首脳陣や各年代層で固まって食べるのではなく、そこで野球以外の話もしながら、いろんな人の考えを学んでいく。シーズン中は職場の違いもあり、投手と野手は別々に食事をとりがちだけど、キャンプはまた別。同じ釜の飯を食うだけではなくて、積極的に世代を超えてコミュニケーションを図ってほしい。

 私が現役時代、特に若いころはチーム宿舎は今のような立派なホテルではなく、旅館だった。畳の上に座って、主に鍋だよね。鍋をつつきながらいろんな話をした。もちろん先輩たちから野球の話も聞いたが、グラウンド外での気持ちの持ち方から遊び方まで、いろんな勉強をしたよ。もちろん大先輩を前に緊張はしたけど、学んだことのほうが大きかった。

 ビールなどのアルコール類などは選手持ちだった。先輩たちが何本とか旅館に注文して、後で請求が来る。今は球団がすべて経費としてやっている。そういった部分も、ありがたみが薄れるよな。話が弾めば、食事をしっかりと時間をかけてとることにつながる。食が細ければ、先輩から食べることの重要性を説かれる。次の日のエネルギー、モチベーションもそこで得ていた気がするな。今は、選手個々にトレーナーがおり、食事制限やサプリメント摂取とのバランスなど、いろんな形で「個」が目立っている。だが、ホテルの食事だって、今やバイキング形式がほとんどだ。和洋中、自分が選んだ形で食事ができる。もっと食堂を活用してほしいと思うよね。

 私が西武の監督時代は、選手同士が連れだって食事に行くことを歓迎していた。ただコーチに言っていたのは、選手と外食する場合には特定の選手とばかり行くな、ということだった。周囲は「○○コーチと××は仲がいい」などと始まって、派閥形成にもつながりかねない。チームにとってマイナスに働くことだってあるからね。

 キャンプは1カ月の長丁場となる。選手個々がグラウンドで鍛えるのと同じくらい、宿舎での団体生活も大切になる。いつも首脳陣だけで固まっている食堂の一角があって、選手はそれに尻込みして入れない……なんてことがあったらもったいない。食事の時のほうが腹を割って話せることが多いし、選手同士、首脳陣と選手のお互いの野球観をぶつけあって、相互理解を深めるのも大切なチーム力向上の場となる。

 若手は一気に食事を済ませて会場を後にするのではなく、ゆっくりと先輩と雑談をし、食事の量もしっかりと確保する。食が細いと限界突破を図ろうとする過酷なキャンプも乗り切れないし、質も落ちるよ。いま一度、選手、チーム全体で見つめ直してほしい。

週刊朝日 2015年1月30日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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