どんな役でも、どんなストーリーでも、どんな描写があっても、演じるときはいつも何の抵抗もないと、前田敦子はいう。「苦役列車」(2012年)、「もらとりあむタマ子」(13年)で、2年連続で日本映画プロフェッショナル大賞主演女優賞を受賞。AKB48を卒業後は、本格女優への道を突き進んでいる。映画「さよなら歌舞伎町」では、有名ミュージシャンを目指す女の子の役を演じた。舞台は歌舞伎町のラブホテル。かつては表舞台で夢を届ける役割を担ってきた彼女は、残酷な現実を描いた作品の中にいても、生き生きと魅力的だ。

「ピュアなラブストーリーに挑戦したのは、実は今回が初めてなんです。登場人物たちはそれぞれに悩みや秘密を抱えていますけど、あんな深刻な事情を抱えた人たちが、リアルに存在しているかどうかは、私にはわかりません。でも、違う人生を歩んでいる人たちが、あるエリアの中で、同じときを刻んでいるのは、いたって普通のことなんだなと思いました。いろんなカップルの物語が同時に進行し、交錯していきますけど、出てくる人出てくる人、みんな、情けなくて可愛いんですよね(笑)」

 表舞台から社会の裏側へ。真逆の空間にすっとなじむことができるのは、彼女の先天的な翳りや暗さによるところが大きいのかもしれない。「“暗さがある”とはよく言われます。たしかに、明るい役より、暗い役をやれと言われるほうが、すんなりいくのかも、とは思いますけど」

 映画に関しては、あまり大衆向けではない、玄人好みの作品に出演する傾向があるが、本人は、「別に私にそういう希望があるわけではないです。ただ、好きなテイストの作品に出られているのは確かですね。何より、監督さんたちとの出会いに感謝しています」と話す。

 グループにいた頃は、アイドルである自覚を強く持っていた。そのせいもあり、グループのメンバー以外とあまり話すこともなければ、食事に行くこともなかった。とはいえ、仕事に関しては、経験値を増やしたくて、焦っていた時期もある。

「でも、卒業してからは、共演者の人たちとおしゃべりしたり、作り手側の人たちとご飯を食べに行ったりするのが楽しくて。以前なら秋元(康)先生に相談していたような悩みも、最近は俳優仲間に話したりとか。とくに、高畑充希ちゃん、池松(壮亮)くん、柄本(時生)くんの4人で、よく集まっています。ただ、その4人のときはお芝居の話はしないかな。いつも他愛のない話ばっかりで。あ、でも14年に私が舞台を経験したので、『4人とも映画もドラマも舞台も、どのジャンルでもやってるね。いつか、みんなで何かできるんじゃない?』みたいな話になったときは、楽しいなって思いました。『じゃあ具体的に何をする?』ってなっても、正直まだ全然真剣にはなれないですけど(笑)」

週刊朝日  2015年1月23日号