“終活”だけでは味気ないと、孫と一緒に習い事をするなど、“祖父母ライフ”を楽しむ人がいる。

 ただ、世帯年収が先細るなか、祖父母の財布を子どもの習い事の出費の頼みの綱として当てにする親たちが増えてきたとNPO法人「孫育て・ニッポン」理事長のぼうだあきこさん(46)は感じる。

「祖父母は『あくまで責任は親にある』と心得てほしい。たとえ一緒に習い事をしても、口を出さないようにするのが円満のポイント」とぼうださん。だが、親にも甘えがあると苦言を呈す。

お金を出せば口を出したくなるのが人情。祖父母の懐を頼るなら、そこは覚悟しておくべきです」

 孫との適当な距離感を保ちつつ自分も存分に楽しむ。岐阜県で服飾会社の取締役を務める井上富紀子さん(63)は、そんな“祖母ライフ”の達人かもしれない。

 次男の息子(13)と娘(11)が小学校低学年のころから毎年一緒に豪州へ短期留学し、ひと夏をともに過ごしている。孫たちを通わせる語学学校の授業料は1カ月で1人13万円ほど。このほかに滞在費がかかるため、毎回コンドミニアムを借りて自炊し、ランチは弁当で節約も心がけているという。

「確かに費用はかかりますが、市営プールは数ドルで泳ぎ放題ですし、無料で遊べるスペースが国内より断然多い。一般的な海外旅行に比べてずっと割安です」

 この体験が生きて、孫2人には英語に全くアレルギーがなく、中1の孫息子は英検2級の取得を目指している。

 滞在中、井上さん自身も楽しむことを大切にしている。やはり語学学校に通い、早朝や授業のない午後には還暦を前に始めた趣味のトライアスロンでの順位向上に向けて、ジョギングや自転車のトレーニングなどに励む。

 井上さんがいつも心がけているのは、子どもたちの家庭の意向に決して口出しをしないことだ。

「頼まれて私ができることならしますが、頼まれなければやりません。留学についても、長男一家は望まないので勧めたことはありません」

 確かに海外まで連れていける井上さんは、経済的に恵まれたケースといえるかもしれない。しかし前出の孫育て・ニッポンのぼうださんは「時間とお金がないから孫と楽しめないと、あきらめる必要はありません」と訴える。孫と趣味や習い事で時間を共有するなかで最も大切なのは、祖父母にしか担えない大きな役割を示すことにあるからだ。

「それは、孫が知らない世界を見せてやることです」

週刊朝日  2015年1月23日号より