訪日外国人が押し寄せる小売店では追い風が吹く (c)朝日新聞社 @@写禁
訪日外国人が押し寄せる小売店では追い風が吹く (c)朝日新聞社 @@写禁

 昨年12月、ドル・円相場は7年4カ月ぶりに1ドル=120円に下落。わずか2年で40円以上も下落した円は、日本経済や国民の生活にとってどんな影響を与えるのだろうか。円安の「吉」の面を語るのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング副主任研究員の中田一良さん。

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 円安の影響で日本人の海外旅行者が減少する一方、旅行などで日本を訪れる「訪日外国人」は増加傾向にあります。1980年には約132万人だった訪日外国人は、2013年に1036万4千人となり、初めて1千万人を上回りました。昨年はさらに増えて、1300万人を突破しました。内需の大幅な拡大が期待しづらい今、いかに外需を取り込むかは喫緊の課題です。訪日外国人が増加すれば、その支出を通じて、より多くの外需を取り込むことができます。

 昨年、訪日外国人が増えた要因はいくつかあります。まず、東南アジア向けの訪日ビザの条件緩和です。例えば、13年7月からマレーシア、タイに対しては短期滞在の場合にはビザを免除しており、昨年9月30日からはインドネシア、フィリピン、ベトナムに対してビザの発給要件の緩和に加え、数次ビザ(期間内なら何度も訪日できるビザ)の有効期間を3年から5年に延長しています。これにより、タイ、マレーシア、フィリピンからの旅行者は、前年比で約1.5倍に増えました。尖閣諸島問題で13年は落ち込んでいた中国からの旅行者も昨年は持ち直し、前年比約1.8倍になりました。

 ほかにも、LCCの就航数の増加や、お花見、紅葉シーズンの観光プロモーションの成功などのプラス材料がありました。こうした要因に加えて、円安による「割安感」が全体を底上げしています。観光庁の統計によると、訪日外国人1人あたりの旅行支出額は、13年には13万6693円でしたが、このところ増加傾向にあり、14年7~9月期は15万8257円と前年同期比で12.7%増となっています。円安で、訪日外国人の消費行動が活発になった傾向がうかがえます。さらに、昨年10月から、消費税の免税制度が拡充されました。家電製品や衣料品などに限られていた消費税免税の対象が、食品、酒、化粧品など全ての品目に拡大されたので、支出額がさらに増えると予測されます。

 13年の訪日外国人の旅行支出総額は年間で約1.4兆円です。政府の「日本再興戦略」では、訪日外国人数を2030年には3千万人超とすることを目標にしています。先ほどの「1人あたりの支出単価(15万8257円)」を用いて、3千万人となった場合の支出総額を計算すると、約4.7兆円に上ります。

 このように、多くの外国人旅行者を呼び込んで外需を取り込むことは、日本経済の成長につながると考えると、円安にはプラスの面もあります。

週刊朝日 2015年1月23日号