トレーニング理論が普及している今、プロ野球選手もさまざまなトレーニングを行なっている。しかし、東尾修氏は本誌の連載コラムで、中身が伴わなければ意味がないと嘆く。

*  *  *

 年末年始。実家に帰って親孝行する選手、家族と海外旅行する選手、この時期だけは、頭を野球から切り離して、と思うよね。

 かつては、スポーツ新聞に「正月返上トレ」とか見出しが躍った。そんな選手もいるのだなと、ひとごとのように思ったものだよ。私は若いころ、12月中や正月に本格的にトレーニングを行うことなんてめったになかった。球界全体が完全オフといった状況だったな。みんな休み。太りすぎないように食事面などを考えはしたが、トレーニングよりも、まずは体の疲れを完全に抜くことしか考えていなかったよ。

 とにかくトレーニングの理論がなかった。1980年代に入ると、異種目の選手たちと合同自主トレを行う選手が一気に増えた。自分たちにはない体作りの理論があって、大いに刺激を受ける部分があった。

 かつてこの欄で書いたが、オフに肘のメンテナンスで温泉に行って治療を受けたことがあったけど、70年代はそれくらいなもの。いろんな新しいトレーニング法が出始めたのは80年代に入ってからだったと記憶している。

 今や、時代は完全に変わったな。例えば、イチローなどは、シーズンが終わって数日後には練習を開始している。体をオフにする瞬間はないといっていい。筋肉を動かす神経を呼び覚ますトレーニングだってある。本格的に始動した時に体がビックリせず、故障のリスクなども減るという効果がある。ベテランであればあるほど始動は早い。

 中日の山本昌を代表とするように50歳近くになっても高いレベルのパフォーマンスが可能になった選手は多い。本当にうらやましいと思うよ。選手にとって、トレーニングの選択肢が増えたことは喜ばしいことだ。ただ、注意することがある。AがダメだからB、C……と、トレーニング方法をすぐに変えたり、すべてのいいところだけをとろうと考えると、根本を見失う。トレーニングの根本を真剣に勉強し、効果を知り、その上で中長期的なスパンで取り組むことを心がけてほしい。最近の選手の中には、理論だけは立派だが、何も身についていないという者もいる。

 投手なら、投げる上での基本は変わらない。良い投手というのは理想の体の使い方をし、その上に特長や、投球術などの応用が乗っかっている。その土台の部分をいかに強固にし、故障しない体を作っていくか。練習は嘘をつかない。だが、練習を自信に変えるのと、自己満足に終わるのとでは違う。見よう見まねで伸びるのは最初だけ。理解度の違いは年を重ねた晩年になって、大きな差となって表れるよ。

 さて、2014年も野球界にいろんなことがあった。大谷翔平日本ハム)が球速162キロを投げ、ベーブ・ルース以来となる「10勝&10本塁打」以上を記録した。メジャー移籍した田中将大(ヤンキース)が前半戦に20勝ペースで快調に白星を重ねながら、右肘の不調で離脱した。

 ファンがハラハラするような戦いは今年も起こる。個人的には、9年ぶりに日本球界に復帰した松坂大輔の活躍が楽しみだ。2月のキャンプでは、じっくり彼の姿を追いかけたい。

 私自身も読者、ファンの存在を常に忘れず、感じたことを書いていこうと思う。2015年もお付き合い、よろしくお願いします。

週刊朝日 2015年1月16日号

著者プロフィールを見る
東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

東尾修の記事一覧はこちら