乳房に傷や変形をきたすことなくがんを治せる、ラジオ波などの低侵襲(しんしゅう)治療。患者にとって、その魅力が大きい。しかし、がん研有明病院乳腺センター長の岩瀬拓士医師は「まだ標準治療ではなく、臨床試験中の治療。エビデンスが不十分で課題も多い」と指摘する。

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 現在、低侵襲治療は小さな乳がんを対象に、その安全性を確認するための臨床試験の中でおこなわれています。ただ、がんが小さいうちであれば、標準治療である温存手術も小さな傷はつくものの、乳房が大きく変形することはありません。

 低侵襲治療のこれまでのデータを見る限り、設定した部分についてはしっかりがんを焼くことができていて、手術の代わりにもなりそうです。しかし最大の弱点は、手術のように切除した部分を顕微鏡で見て、がんが取りきれたかどうか確認できないという点です。治療の前には検査画像を駆使してがんの広がりを予想しますが、実際に手術で取った病巣を病理検査してみると、半数は予想を超えた範囲にがんが広がっています。多くが取りきれていない場合も1割近くあります。この場合は、当初設定した切除範囲を拡大して、再度手術をおこなう必要が出てきます。

 低侵襲治療は予想よりがんが広がっていても気づかず、修正の治療を加えることはありません。再発して初めてがんが焼ききれていなかったことに気づくのです。将来、検査技術の精度が向上して事前にがんの広がりを正確に予想できるようになれば、あるいは治療後に焼けていないがんを早期に指摘できるようになれば、標準治療への仲間入りも夢ではなくなるでしょう。しかし今は臨床試験で小さながんから慎重に成績を積み重ね、安全性を実証していく段階です。

 もう一つの問題は、この治療は本来臨床試験以外ではやるべきではないのに「患者が希望しているから」と実施する医療機関があり、それを最新治療だと勘違いして自費で受ける患者さんがいることです。局所の治療をおろそかにすれば、治るはずの乳がんも再発して治らなくなってしまいます。低侵襲治療を考えている患者さんは、臨床試験の実施施設で受けてください。治療後も責任を持って管理してくれる病院を選択すべきなのです。

週刊朝日  2015年1月2-9日号