2014年5月、2年連続で来日したものの、急病でコンサートが中止となったポール・マッカートニー。72歳という年齢にもかかわらず、ビデオゲームという新しい音楽に挑戦するなど精力的に活動する。ロンドンでポールにインタビューし、再来日の予定など近況を聞いた。

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――常に新しい分野に挑戦され、「Destiny(デスティニー)」というビデオゲームの音楽にも最近、挑戦されたそうですね。

「『Halo(ヘイロー)』シリーズで知られるバンジー・スタジオで、音楽を担当していたマーティン・オドネルという作曲家から依頼が来たんだ。新しいゲームを開発している最中で、この音楽の制作に協力してもらえませんか、とね。興味があったので、会って話を聞いた。どんな方法で音楽を作るのか説明してくれて、技術的な難しい部分は彼が担当するので、僕にはテーマや曲作りの案の点で協力してほしいということだった。とても良い話だし、ぜひやりたいと思ったんだ。僕の音楽を知らない人が僕の音楽を聴いてくれる機会になるんじゃないかと思ったんだよ」

――ビデオゲームの音楽というと枠が限られていて、2、3分だったり、逆に時間に制限がなかったり。どこに興味をそそられたのでしょうか?

「そうだね。同じことを繰り返すのは退屈だし、これまでやったことのないことをやりたいと思う。ビデオゲームは子供たちにとても人気があり、僕の知り合いの子供たちは皆ヘイローのファンだ。だから僕が今度ヘイローと同じ会社が作る新しいゲームに音楽を書くんだと言うと、皆“うわ~凄い”と言ってびっくりしてくれるんだよ(笑)」

――音楽に着手した段階で、ゲームはすでに完成していたのですか?

「まだ開発の段階にあって、背景を制作しているところだったが、ゲームの基本は決まっていた。プレイヤーには邪悪なエイリアンから地球を救うという使命があるんだ。初期の段階だったから、それなら僕はテーマから入ろうかな、と思った。メモ程度の音を作って、マーティンに送ったんだ。彼はそれを気に入ってくれて、アレンジを入れて送り返してきてくれた。彼の作曲したものを聞き返して、それに僕が書き加えて、といった作業を繰り返した。こんな新しい音楽作りは、とても面白かったよ」

――今回、あなたは120人のオーケストラを使い、壮大な音を作り出しました。これはまた、ビデオゲーム音楽の限界に挑戦したと言えますね。

「そうであれば嬉しいね。こういった音楽を作ったのは、僕なりに素晴らしいビデオゲーム音楽を追求したまでなんだ。共作した作曲家のマーティンも同意してくれた。また彼にも言ったんだが、ゲームのために音楽を書いても、ゲームを離れたところで音楽が独り立ちすることも大切だとね。普通の曲としてラジオでかかるかもしれない。ゲームの世界でエイリアンを追跡するときだけのための音楽である必要はないってね。ゲームの音楽であると同時に僕の曲として仕上げることが、今回のテーマであり難関だったと思う。同時に聞き手に希望を与える曲、人を触発する曲が書きたかったんだ」

――ところでそのビデオゲームのほうは実際に試してみましたか?

「試してはみたけれど、あまりうまくはないんだ。それに他にすることがたくさんあるから、基本的に僕はゲームはやらないよ。子供たちがやっているのを後ろから見ていることはあるけれどね」

――「Destiny」のために書き下ろした新曲「ホープ・フォー・ザ・フューチャー」が14年12月、リリースされました。あなたの思いは?

「この曲を書く目的は、メッセージを伝えたかったからだ。それを人に聴いてもらいたかったから。特に若い世代たちが大人になってから、あの曲だ、って思い出せるような曲にしたかったんだ。希望に溢れたメッセージを通して、若い世代たちへの未来観に少しでも良い影響が与えられればと思ったんだ」

――日本のファンはあなたが再来日する日を待ち望んでいます。

「そうなんだよ。残念なことに、病気になって、コンサートができず、延期しなければならなかった。日本公演は延期になっているだけで、実現したいと僕は言ってきた。ファンをがっかりさせたくないんだ。実現することを祈っている」

(音楽ライター 高野裕子)

週刊朝日  2015年1月2-9日号より抜粋