本読みのプロたちが選ぶ本誌の恒例企画「歴史・時代小説ベスト10」。6回目となった2014年のランキングには、女性作家の作品が並び、1位は宮部みゆきさんの『荒神』となりました。宮部さんは作品への思いをこう明かす。

──本作は念願の「怪獣もの」ということですが。

宮部:10年前から「怪獣もの」を書きたいと思っていたのですが、現代を舞台とすると、情報の伝達や自衛隊や警察の動き、インフラが壊されたときの現象など、膨大なことを取材しなければいけません。私は理科系の人ではないので、超苦手なんですよね。これは無理かなぁ、と思っていたのですが、2~3年前、「時代小説で書く手がある」と、ふと思いついたんです。映画の「大魔神」が大好きなんですが、「大魔神」みたいにすれば、書けるかもしれない、と。

──読者にとって意外だったのではないでしょうか。

宮部:新聞連載ですし、「おばけみたいなもんが朝っぱらから出てきて」と読者に怒られるかなって冷や冷やしていたんです。ところが蓋を開けてみれば、「この先どうなるんですか」「この子が助かるといいんですが」と、読者の皆さんが手に汗握って応援してくださった。「やっぱり日本人はみんな怪獣が好きなんだ」と、あらためて怪獣の力を思い知りました。

──ウルトラシリーズを想起させるところもあります。

宮部:私はウルトラQから円谷プロの特撮作品で育った世代、いわば「円谷の申し子」ですから、恩返しという意味でもいつかは書かなきゃならないと思っていました。結果的には「大魔神」の大映特撮映画寄りのものになりましたが、私にとって、長年書きたかった怪獣ものを実現できた節目の作品です。この作品を出せて、本当に2014年はいい年でした。一歩階段を上がった気がします。

──東北を舞台に暴れる怪獣は、福島第一原発事故の暗喩では?

宮部:作品自体は原発事故の前から構想していました。山が舞台で、雪解けの頃に事件が起きて、すべてが解決して本当の春が来るという流れにしたかったので、最初から東北が念頭にありました。その後、東日本大震災があり、自然の前に人間が無力だということを私も思い知らされましたので、やはり意識はしました。とはいえ、現実に起こった恐ろしい事実は、この程度の分量の小説一冊に押し込めてしまえるほどのことでは到底ない。連想される部分がほんの一部ある、といった程度でしょうか。ただ、連載が始まると、投書欄に「福島第一原発事故を思い出す」という投稿をいただいたりもして、身が引き締まる思いで書いていました。

──「ゴジラ」も核の恐怖と結びついていますね。

宮部:だからこそ、私が、今回のような「エイリアン」なども混ざったような、新しいタイプの怪獣を描いても、日本の読者は「自然の恐ろしさ」や「東北での惨事」といった文脈に変換できるんだと思うんです。それがない国の人が読んだら、「モンスターもの」というだけで終わるかもしれない。これは日本人のすごいところだと思うし、そういう文化的DNAを持たせてくれた、円谷英二や本多猪四郎(いしろう)はやはり偉大ですよ。

週刊朝日 2015年1月2―9日号より抜粋