高倉健、菅原文太、宇津井健、蟹江敬三、淡路恵子、山口淑子……多くの名優たちが亡くなった2014年。彼らが活躍した昭和の時代を偲びつつ、正月にじっくりと、楽しみたい古きよき「昭和の日本映画」5本を、昭和映画を愛する人気脚本家・木皿泉が紹介する。

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 ドラマ「やっぱりが好き」のあと、仕事がなくなったときに古いレンタル屋さんで昭和映画を山のように借りて見たんです。夢のような時代でしたねえ。いまでもそれらが体の中に入っていて、それを基に脚本を書いているようなところがあります。

 黒澤明監督ならゴーリキーの戯曲を基にした「どん底」。ロシアの話を日本の長屋を舞台に、ちょっと落語みたいにしているんですよね。シェークスピアを解釈した「蜘蛛巣城」といい、黒澤さんは解釈も優れた人だなあと思います。

 成瀬巳喜男監督なら「めし」。ホントになんにも起こらない話なんですけどね。原節子と上原謙という絶世の美男美女夫婦の結婚後を延々と描くんですが、戦後の男の人って本当にうだつが上がらないなあ!というか(笑)。結婚生活のやるせない、どうしようもない感じがよく描かれてます。あの原節子が「このごはん食べられるかしら」ってクンクン匂いを嗅いだり。原節子が実家に帰って何にもしないで寝てるだけなんてシーンは、いま見ても妙にリアルな感じですね。

「殿さま弥次喜多シリーズ」は沢島忠監督の3本シリーズ。明るくってテンポもよくて、見ていて気持ちがいいんです。二人が海の真ん中で筏(いかだ)に乗って「さあ、弥次さん、どこ行こうかねえ」「喜多さん、どこ行こう」とか言ったりしているのが、のんきな感じでいいなあ! やっぱり喜劇は好きですね。日本のよき時代の象徴みたいな感じ。

「小原庄助さん」は「こんな生き方ができればいいよね」という私たちのある種の理想ですねえ。大河内伝次郎演じる庄助さんはお金持ちなんだけど、人にいろんなものあげちゃうんです。幸せの王子みたいに。泥棒が入ってきたら「お前もうちょっと早くきたらよかったのに。みんなもうあげちゃった後だよ」って。噂では清水宏監督本人の人柄がこうだったと言われています。

 川島雄三監督は全部好きだけど「洲崎パラダイス 赤信号」は、新珠三千代がすごく生き生きしてるのがいい。男女のすれ違い話なんですけどね。この時代の女の人の描き方ってどうしても不満の残るものが多いんですが、川島監督の持っている女性観がいいなあと思うんです。フランス映画のトリュフォー監督のようというか、女性をバカにしてないっていうのかな。

 マキノ雅弘監督の「鴛鴦(おしどり)歌合戦」も、戦争がまさに始まろうとする暗い時代にこんなにのんきで明るい時代劇を撮ってたんだ!と驚きます。マキノ監督の「次郎長三国志」は、漫画「ONE PIECE」の基になっているらしいですし、この時代の映画は若い人が見ても夢中になると思いますね。

■木皿泉さんの5本
『どん底』(昭和32年 監督/黒澤 明 2500円 発売・販売/東宝)
『めし』(昭和26年 監督/成瀬巳喜男 2500円 発売・販売/東宝)
『殿さま弥次喜多シリーズ』(昭和33~35年 監督/沢島 忠 ※東映ビデオ VHS廃盤)
『小原庄助さん』(昭和24年 監督/清水 宏 4800円 発売・販売/紀伊國屋書店[新東宝傑作コレクション])
『洲崎パラダイス赤信号』(昭和31年 監督/川島雄三 1800円 発売/日活 販売/ハピネット)

(取材・構成 中村千晶)

週刊朝日 2015年1月2―9日号