昨年度、高視聴率を記録したNHK連続テレビ小説「ごちそうさん」で高畑充希が歌った「焼氷有りマスの唄」。それは、脚本の森下佳子さんが、彼女の歌声に出会ったことで生まれたシーンだった。公開中の映画「アオハライド」では、心に傷を負った高校生の“狂気”を、20日公開の「バンクーバーの朝日」では、カナダに移民した日系人女性を、ひたむきに健気に演じた。佇まいの中にある“懐かしさ”はひとつの武器かもしれない。でもそれ以上に、彼女の表現からは、いつもかならず得体の知れない才能が顔をのぞかせる。

「私の強み、ですか? 何でも屋さんみたいなところかなあ(苦笑)。年齢の割には、いろんなジャンルの、いろんな役をさせていただいてきましたので……。ただ、新しいお仕事に入るときは、怖いんですよ。だからいつも、『終わったら一皮剥けるぞ!』って信じて、現場に飛び込んでいく感じです。不安だらけで入っても、いざやってみたらとても楽しかったお仕事も、たくさんありましたし……」

 舞台女優になることは、小学校3年生のときからの夢だった。夢というより目標だった。中学2年のときオーディションに合格。2007年からミュージカル「ピーターパン」の8代目ピーターパン役を務めた。

 09年には、舞台「奇跡の人」でヘレン・ケラー役を演じているが、実はその舞台終了後、燃え尽き症候群になってしまったことがある。

「夢だった舞台に立てたのはすごく嬉しかったんです。でも、ひとつの夢が叶ってしまったことで、舞台が終わったとき、しばらく、何も手につきませんでした。少ししたら、復活しましたけど」

 見た目だけで言えば、動よりは静、明よりは暗のイメージだが、本人は、「暗い性格ではないですよ。どちらかと言うと明るいほうだと思います。人見知りなので、打ち解けるまでに時間はかかりますけど、人は好きです」と自己分析した。

「お芝居のことで何か思ったことがあれば、必ず演出家の方や監督さんに伝えます。『アオハライド』では原作の役が強烈だったので、もう殴り込みをかける気持ちで(笑)。いろんな役を演じていく限り、いい人に思われたい、とかはないです。周りの人には愛されたいですけど(笑)。支持でも反発でも嫌悪でも何でもいい。私の役から何か少しでも感じてもらえたら、それで十分です」

 舞台「いやおうなしに」では、古田新太さんや小泉今日子さんと初めて共演する。演出は河原雅彦さん。3年前から親しくしている脚本の福原充則さんが高畑さんのために書き下ろしたのは、「精神的にはピュアだけど、やってることはビッチ」な役だとか。歌謡ファンクバンド・面影ラッキーホールが紡ぐ音楽と、個性ある俳優たちとの共演の中、また、彼女の新たな才能が開花する。

週刊朝日  2014年12月26日号