手術、放射線治療と並ぶがんの3大療法の一つである、抗がん剤治療。患者数の多い肺がんの最新治療薬について、がん研有明病院血液腫瘍科部長畠清彦医師に解説してもらった。12月8日発売の週刊朝日ムック「新『名医』の最新治療2015」から紹介する。

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 肺がんの薬物療法は、分子標的薬が開発されたことによって発展し、がん細胞の遺伝子やがんのタイプによって薬を使い分ける「個別化医療」が確立してきました。

 その先駆けとなった薬が、2002年に登場したイレッサです。がん細胞の表面にはEGFRというタンパクがたくさん出現していて、このタンパクからの信号が細胞内に伝わるとがん細胞が増殖します。イレッサは信号の伝達を止めることで、がん細胞の増殖を抑えてくれるのです。最近の研究で、イレッサの効果が期待できるのはEGFRの遺伝子に変異がある人のみということが明らかになりました。対象になるのは肺がん患者の3割ほどで、事前に遺伝子を調べ、対象者だけに投与されています。

 タルセバとジオトリフも、イレッサと同じEGFRを標的にした薬です。

 07年に承認されたタルセバは、EGFRの遺伝子変異がない人にも効く可能性があります。さらに、従来の薬が効かなくなった非小細胞肺がん患者にタルセバを投与した臨床試験では、生存期間が延長しました。すなわち標準的な化学療法を実施後、その効果がうすれて病状が悪化した場合でも、次の有望な切り札として用いることができるのです。

 14年に発売されたジオトリフはEGFRだけでなく、細胞のがん化にかかわるHERというグループの遺伝子タンパクも攻撃する作用があるとされています。

 一方、ザーコリ(12年発売)とアレセンサ(14年発売)は、がんの増殖力が強いALK融合遺伝子を持つ患者が対象です。該当するのは約5%ですが、臨床試験ではザーコリは約60%、アレセンサでは90%以上に、がんを小さくする効果が見られました。

 肺がんは難治がんですが、効果が高い個別化医療によって長期生存例も増えています。呼吸困難や痛みも軽減され、いい状態で生活することが可能になっています。

週刊朝日  2014年12月19日号