手術、放射線治療と並ぶがんの3大療法の一つである、抗がん剤治療。患者数の多い前立腺がんの最新治療薬について、がん研有明病院血液腫瘍科部長畠清彦医師に解説してもらった。12月8日発売の週刊朝日ムック「新『名医』の最新治療2015」から紹介する。

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 前立腺がんは日本人の男性がんの罹患者数で4位ですが、2025年に年間10万人を超え、1位になると予想されています。

 男性ホルモンであるアンドロゲンにより発症、増殖するがんで、進行がんではアンドロゲンの分泌や働きを抑えるホルモン剤が薬物治療の第一選択薬となります。ただ、数年で効かなくなり、この状態を「去勢抵抗性前立腺がん」といいます。唯一の治療法として従来型の抗がん剤タキソテールが08年に導入され、2年くらい延命できるようになりましたが、副作用が多く、治療できるのは3割程度の患者さんでした。

 そんな中、14年に登場した3種類の新薬が、治療選択肢のなかった人の福音になるといわれています。このうち二つはザイティガとイクスタンジという飲み薬です。抗アンドロゲン剤という種類のホルモン剤ですが、作用するしくみが異なります。アンドロゲンの95%は精巣で作られ、5%は副腎や前立腺腫瘍組織内で作られますが、ザイティガは精巣、副腎、腫瘍組織に作用し、アンドロゲンの合成を阻害します。イクスタンジは、男性ホルモンが、前立腺にあるアンドロゲン受容体に結合するのをブロックします。両剤ともタキソテールの治療前か治療後に用いますが、従来の薬に比べ、アンドロゲンの低下作用やブロック作用がより強力です。

 治療する際に重要なのは、持病や合併症です。ザイティガは肝機能障害や心疾患、イクスタンジは稀ですが痙攣麻痺の報告があり、脳梗塞の既往歴のある人などは注意が必要です。また、一方の薬で効かなくなった後に、もう一方の薬で治療しても効果は低いと言われています。

 タキソテールが効かなくなった人への治療薬として、抗がん剤ジェブタナも発売されました。ザイティガやイクスタンジが効かなくなった人にも30.0%の割合で効果がありますが、白血球(好中球)などの数が減る骨髄抑制が高頻度で起こるため早めの対処が必要です。一方で、末梢神経障害など生活の質を低下させる副作用が少なく、タキソテールの治療期間(現在は10回以上)を短くして、ジェブタナに替えるという治療法が増えると思われます。

週刊朝日  2014年12月19日号