手術、放射線治療と並ぶがんの3大療法の一つである、抗がん剤治療。血液のがん以外では、薬だけでがんを完治できないと言われていたが、乳がん治療ではその可能性が高いという。どういうことなのか、がん研有明病院血液腫瘍科部長畠清彦医師に解説してもらった。12月8日発売の週刊朝日ムック「新『名医』の最新治療2015」から紹介する。

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 乳がんはほかのがんに比べると薬がたくさんあり、従来型の抗がん剤、分子標的薬に加えてホルモン剤も使われています。治療方針は、ホルモン感受性やHER2タンパクの発現量によって5つのタイプごとに決められています。さらに、閉経前と後、初発か再発かによって薬を変えるなど、個別化医療が最も進歩しているがんです。

 乳がんでは、がん細胞の表面にHER2というタンパクが過剰に出現している人が患者の約20%います。このタイプには、以前は効果的な薬がなく予後が悪いとされてきましたが、2001年にハーセプチンという画期的な分子標的薬が登場しました。HER2を狙ってがん細胞の増殖を抑えるので、進行がんや再発、転移した場合でも長く生きられるようになりました。術前、術後の補助化学療法にも使われています。

 その後、09年に内服薬のタイケルブ、13年にパージェタも発売されました。いずれもハーセプチンと同じHER2を標的にした薬ですが、異なる部位に結合して働くので、ハーセプチンが効かない人に次の一手として使用する、ハーセプチンと併用して効果を増強させるなど、治療の選択肢が広がっています。

 14年には新しいタイプの分子標的薬カドサイラが発売されました。ハーセプチンにDM1という抗がん剤を結合させた薬で、ハーセプチンががん細胞までDM1を運び、細胞内に入ったDM1が毒素を出してがん細胞を死滅させます。分子標的薬と従来型の抗がん剤双方の特徴を生かした効果の高い薬です。

 これまで、血液のがん以外は、薬だけでがんを完治させることはできないとされてきました。しかし「がんを小さくする目的でカドサイラを投与したら、その後の手術でがんが消えているのを確認できた」というケースが増えてきているのです。「薬単独での固形がんの完治」の実現に一番近いのは、乳がんと言えるでしょう。

週刊朝日  2014年12月19日号