時給で働くパートの世界で、60歳超の女性が注目されている。きめ細やかな気遣いやマニュアルに盛り込めない温かさなどで、引っ張りだこという。若い働き手が減って人材不足に悩む企業が熱視線を送り始めた。労働市場で輝く秘密を探る。

 求人情報サービス会社アイデムの調査では、パートで働く目的を生活費やローン返済といった「家計補助」ではなく、レジャーや趣味などに充てる「生活向上のため」と答える人は年齢を重ねるに従って増え、60代以上ではほぼ3人に1人にのぼる。

 そうしたシニア女性の心理をよく表しているのが都内でベビーシッターのパートをしている齊藤美代枝さん(61)だ。50歳を前に専門学校に入り、保育士の資格を取得した。

 大学卒業後に団体職員となり、大学サークル仲間の夫(61)と20代半ばで結婚。長男(31)の出産で専業主婦になったが、次男(28)の小学校入学を機に社会復帰。40歳だった。

「年を取った時に、子育てだけじゃつまらないと……。いや、それだけではカッコ良すぎますよね(笑)。実際、家のローンや教育費が大変だったんです」

 最初は都心の税理士事務所でアシスタントに。月収5万円。夫婦共通の趣味だったスキーを極めようと入会したサークル費に充てた。2年後、事務所メンバーの世代交代に合わせて退職。次は「子どもの帰宅時間までに家に戻れるように」と、近所の認可保育所で保育士補助になった。5年ほど経った時、園長から「正式に保育士にならないか?」と誘われた。

「上の子は大学生になっていて、専門学校で資格を取ってみようか、と」

 48歳の決断。年間60万円の学費は、パート収入を全額つぎ込んだ。朝と午後の2時間ずつを保育所で働きながら、夕方に電車に飛び乗って都心の専門学校へ。夜間コースで毎日9時まで勉強した。夕飯づくりは長男が担った。その3年後、51歳で念願の保育士になった。

 そして昨年、ベビーシッターを始めた。キャリアを通じて、自分には集団保育よりも、マンツーマンのほうが向くと考えたからだ。専門学校の講師だった中舘慈子さんが代表のベビーシッター会社「ファミリー・サポート」の門戸をたたき、いま二つの家庭へ通う。

 同社所属のベビーシッターのパートは300人以上。うち約3割が60歳以上だ。07年から10倍に伸びた。中舘代表が言う。

「シルバー人材センターなどでベビーシッター講習を開くと、この年代層がとても多く集まります。親でも先生でもない第三者のシッターは、子育てや人生経験が豊富な年配者ほど余裕があり、子どもたちを包み込むように温かく接することができる。子どももほっとし、ありのままの姿を見せてくれるんです」

 齊藤さんは親の代わりに保育所に迎えに行き、満面の笑みで子どもに抱きつかれたり、帰宅した親に引き渡す時に「帰らないで」と引き留められたりする。

お金のためではなく、世話になった方や社会への恩返しのつもりで働いています。愛情でも何でもいい。私に与えられるものがあるなら働き続けたいんです」(齊藤さん)

週刊朝日  2014年12月5日号より抜粋