映画館前に設けられた献花台には多くの人が訪れた(11月19日) (c)朝日新聞社 @@写禁
映画館前に設けられた献花台には多くの人が訪れた(11月19日) (c)朝日新聞社 @@写禁

 悪性リンパ腫のため11月10日に亡くなった俳優の高倉健(本名・小田剛一)さん。銀幕の大スターである健さんはその人柄から沢山の人々を惹きつけた。

 地方のロケ先でも、健さんの気遣いは変わらない。映画「あなたへ」のロケにエキストラとして参加した、北九州市の映画館「小倉昭和館」館主の樋口智巳さんがこう話す。

「ちょうどロケの間、映画館で高倉健さん特集を組んでいました。するとスタッフからそのことを聞いた健さんが、現場にいた私に、こちらより先に『ありがとうございます。自分の映画を上映していただいて』と言ってくださった」

 人との出会いを大切にした健さんが、なかでも大事にした女性が2人いる。

 一人は母親だ。インタビューやエッセーでは、「母の躾(しつ)けが厳しかったおかげ」「母に怒られそうなので」と、「母」について多くを語っている。91年に出したエッセー集『あなたに褒められたくて』の最後に健さんは書く。

<お母さん。僕はあなたに褒められたくて、ただ、それだけで、(略)三十数年駆け続けてこれました>

 もう一人は離婚した江利チエミさんだった。82年に45歳で亡くなった江利さんの墓参りは欠かさず、再婚はしなかった。

 あるライターが言う。

「数年前、健さんにもう時効だからと離婚の話を尋ねたんです。そうしたら、『人間は難しいもので、愛し合っていても別れなければならないことがある』とおっしゃいました」

 インタビューでも、こんな言葉を残している。

<籍が入ったとか入らないとか、子供を持ったとか持たないとか。そんなことよりも、悔いのない人に出会えたという記憶があるかないか。僕はそっちのほうがとっても大事だと思いますね>(「person」2001年7月号)

 心を大事にする健さんらしい生きざまだった。

週刊朝日  2014年12月5日号より抜粋