11月21日、安倍晋三首相は予告どおり、衆議院を解散した。18日の首相会見では「消費税率10%への引き上げを18カ月延期することは重大な変更。国民の信を問うのは当然だ」と強調するばかり。国民からは「理解できない」という声が多く上がる。

 安倍首相は消費増税先送りの理由について、7~9月期の実質国内総生産(GDP)の速報値が、前期比で年率1.6%減と2四半期連続のマイナス成長だったことを挙げた。

 だがマイナスだったのは、首相の経済政策が失敗だったからと指摘する専門家は多い。立命館大学の高橋伸彰教授(日本経済論)もその一人だ。

「首相は大胆な金融緩和でデフレを克服すれば、雇用者の賃金に還元されて消費も増えると考えていた。ところが13年7月以降、物価高を除いた実質賃金は前年同月比で15カ月連続で減少している。企業収益が上がっても内部留保になっただけ。そもそも、アベノミクス第一の矢は金融政策ではなく、90年代半ばから続く賃金下落対策にするべきだった。4月から続く景気後退は、国民の消費が弱っていることに目を向けず、企業収益を重視した結果です」

 首相が消費増税を延期したことで、今後は財務省からの“反撃”も予想される。政府与党は来年度の予算編成に向け、増税を前提に待機児童解消のための保育施設の整備や低所得者支援などを決めていた。今後は当然、大幅な見直し作業をしなければならない。

 また首相は増税を延期しながらも、基礎的財政収支の赤字(GDP比)を15年度に10年度比で半減させ、20年度までに黒字化する財政健全化目標は「旗を降ろすことはない」と断言した。となると、財務省は歳出削減のさまざまな案を作成するハメになる。

 ある財務省幹部は本誌の取材に、「増税先送りは青天の霹靂(へきれき)。年末年始も休みなく働く職員が続出する」とうなだれた。

 財務省OBは言う。

「財務省は今後、安倍首相の増税先送りの決断がいかに愚かで、自分たちが振り回されているかを、増税派の重鎮である伊吹議長や谷垣禎一幹事長、野田毅・党税制調査会長らに話しまくる。もともと首相の増税先送りに反対だった各氏は、反安倍の感情を強めていく。さらに財務官僚は、増税見送りで歳出削減された項目の族議員にも、『首相の決断で、こうなってしまった』と言う。結果、党内の反安倍が拡大し、増税は必要だったというムードにだんだんと染まっていくのです」

 四面楚歌(しめんそか)になりつつある安倍首相。この窮地から脱することはできるのか。

週刊朝日 2014年12月5日号より抜粋