ジャーナリストの田原総一朗氏は、今回の衆議院の解散・総選挙について自民党が議席を確保するための大義なき選挙だとこう語る。

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 衆院解散が決定的になった。

 12日の各紙朝刊は1面トップで次のように報じている。

「総選挙準備 各党急ぐ 首相解散検討 消費増税めぐり」(朝日新聞)
「年内総選挙で調整 首相 解散、来週判断」(毎日新聞)
「首相、来月総選挙決断 消費再増税1年半延期」(産経新聞)

 安倍首相は海外出張から今月の17日に帰国することになっている。そして、この日に7~9月期の国内総生産(GDP)の速報値が発表される。その数字はよくないとみられている。そこで、消費増税の先延ばしを発表し、早ければ19日に衆院を解散するというのだ。年内の総選挙を最も早く打ち出した読売新聞は「(12月)2日公示、14日投開票」、安倍首相側近と太いパイプを持つ産経新聞は「9日公示、21日投開票」と報じている。

 もっとも、今回の総選挙は、安倍内閣が国民に何を問おうとしているのか、テーマがはっきりしない。

 そのために朝日新聞は社説で「解散に大義はあるか」と疑問を呈し、「まさに党利党略」と決めつけていて、毎日新聞は「その発想はあざとい」と痛烈に批判している。

 
 もちろん野党は「ご都合主義の身勝手な、大義なき解散だ」(川端達夫・民主党国対委員長)、「疑惑・矛盾隠しの党利党略解散だ」(枝野幸男・同党幹事長)、「首相の横暴解散で、重要法案をぶん投げることになる」(小沢鋭仁・維新の党国会議員団幹事長)などと、どの党も怒りを爆発させている。こうした反応からは、野党各党の準備態勢がまったく整っておらず、困った選挙なのだとも解釈できる。そして、この現実こそが、安倍首相がいま解散・総選挙をやろうとする要因の一つである。

 10月31日に、日銀が国債30兆円を引き受ける追加の金融緩和を決めた。そのために円は1ドル=115円台と円安になり、1万5千円を割りそうだった日経平均株価は1万7千円台に跳ね上がった。

 この追加緩和については、毎日新聞が「中央銀行として踏み込むべきではない領域にまた深く、日銀は足を進めてしまった」と批判し、朝日新聞も批判的であったが、安倍首相の側近たちは株価が大きく上昇したことで成功ととらえたようだ。しかし、この高株価は長くは持続しない、つまり景気が好転したわけではないことを承知していて、だから高株価が続いている間に選挙を敢行しようと考えているわけだ。

 さらにいえば、消費増税を先延ばしにして選挙を行うのは、30兆円という追加の金融緩和を決めた日銀の黒田東彦総裁に対する裏切り行為である。黒田総裁が追加の金融緩和を決めたのは、2015年の消費増税を前提にしていたはずだからである。

 また、安倍内閣は、今国会で女性活躍推進法案を成立させると意気込んでいた。野党の反対が強い、労働者派遣法改正案も成立させるはずであった。だが、19日に解散となると、いずれも成立は困難になる。

 やるべきことをやらないで、株価が高く、野党の態勢が整わないうちに選挙を敢行する。野党や朝日、毎日の両紙が指摘するとおり「大義なき選挙」だ。だが政権政党の選挙へのホンネは「大義」ではなく「勝利」だ。自民党は直近で選挙をすれば議席が増えることはないが、減少を1割以下に抑えられる、と読んでいるようだ。さあ、国民はいったい、どのように反応するのか。

週刊朝日 2014年11月28日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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