安倍晋三首相(60)はいよいよ衆議院を解散し、総選挙に踏み切る。「消費増税の先送り」について国民に信を問いたいとのことだが、自身の政権延命のためというのは明らかだ。自民党は前回に近い大勝まで期待できるという予測も出てきた。

 一方、野党第1党の民主党。実は11月上旬、所属する衆院議員55人の情勢調査を行っていた。結果は約半数が、ライバルの自民党や公明党などの候補に負けているという衝撃的なものだった。東京1区を地盤とする海江田万里代表も、こともあろうに劣勢だったという。

「こんな代表では戦えない。今すぐ代えて、党勢回復を図るべき」との声が上がる中、それを見透かしたかのように安倍自民党が解散を仕掛けてきた。

 全295小選挙区で民主党が候補を立てているのは半分以下の約130人。現在、大慌てで岡田克也代表代行や馬淵澄夫選対委員長らが、前回選挙で落選し、引退状態の元議員に片っ端から声をかけている。

 民主党関係者が言う。

「細川律夫元厚労相らが続々と出馬を決意してくれているので、数は何とか増えそうです。ただ問題は維新の党やみんなの党など、他の野党と競合する40近い選挙区の調整をどうするか。時間がなくて一本化できず、このまま選挙突入。結果、前回と同じような共倒れになることもあり得ます」

 維新の党の衆院議員も「最悪のタイミングで解散をやられた」と嘆く。

「共同代表の橋下徹大阪市長の『大阪都構想』の制度設計案が10月末、大阪府・大阪市両議会でいずれも否決された。最大の公約が事実上、頓挫し支持率が急落しているところに、解散ですからね。橋下代表は裏切った公明党の衆院議員がいる大阪、兵庫の計6選挙区に、刺客を出すと言っていますが、勝てるかどうか。ついには来春の奈良県知事選への出馬を要請していた東国原英夫元衆院議員にまで、刺客として衆院選に出てくれないかと口説いているようです」

 内紛が続くみんなの党は渡辺喜美前代表と浅尾慶一郎代表の対立がこの期に及んで深刻化。浅尾氏が「与党にすりよる人は離党も仕方がない」と言えば、渡辺氏が「このまま野党共闘すれば選挙に勝てない」と応酬。解散前後に分党する可能性まで出てきている。

 次世代の党は最高顧問の石原慎太郎衆院議員が政界引退を示唆したことで、注目度は一気に低下。生活の党も小沢一郎代表のマスコミへの露出が激減し、所属議員全員が厳しい戦いを強いられている。野党で元気なのは共産党ぐらいだ。

 自民党閣僚経験者は言う。

「野党のこうした状況を把握して安倍首相や菅義偉官房長官が解散を仕掛けていたらすごいこと。解散に批判的だった議員も報道を見るにつれ、絶好のタイミングで解散をすると称賛し始めている。前回に近い大勝も十分に可能ではないか」

 死んだふりからの自分のため解散。捕らぬタヌキの何とかに、ならなければいいが……。

週刊朝日 2014年11月28日号より抜粋