ドラマ評論家の成馬零一氏が、綾瀬はるか主演の『きょうは会社休みます。』について、「入口は痛々しい」としながらもこう評価する。

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「こじらせ女子」という言葉をご存知だろうか。

 由来は、女としての生きづらさを綴った女性ライター・雨宮まみの著書『女子をこじらせて』(ポット出版)からで、普通の女性にはできる恋愛や結婚などの女らしい振る舞いが、何で自分にはできないのだろう?と、悩んでうまくこなせない自意識のありようを「こじらせ」という言葉で表現したものだ。

 日本テレビ系で水曜夜10時から放送されている綾瀬はるか主演の『きょうは会社休みます。』は、そんな「こじらせ女子」の恋愛を描いたドラマだ。青石花笑(綾瀬はるか)は30歳の誕生日を控えたOL。老舗商社の帝江物産食品部で事務職として勤めるが、恋愛には疎く、未だに男性経験はゼロ。映画鑑賞と愛犬の散歩以外は会社と家を行き来するだけの単調な生活を送っていた。しかし、30歳の誕生日に同じ部署の現役大学生のアルバイト・田之倉悠斗(福士蒼汰)と二人きりになったことがきっかけで、一夜を共にしてしまう……。

 一途で真剣な田之倉の積極的なアプローチに翻弄されながらも、自分に自信がない青石はなかなか素直に好意を受け取れない。普段は30歳の自立した女性として振る舞っていても、恋愛に関しては疎いために、田之倉のことで心の中がいつもザワザワ。そんな外見と内面のギャップが本作の面白さだ。

 当初は『ファーストクラス』(フジテレビ系)と同じ時間帯のため、綾瀬はるかvs.沢尻エリカの女優対決として注目されていたが、『ファーストクラス』第1話の平均視聴率が8.8%(関東地区)なのに対し、本作の第1話は14.3%(同)と圧勝。

 また、第2話では、17.0%(同)と上昇し、今後、どこまで数字を伸ばすのか、注目が集まっている。

 
 スタート当初は、「こじらせ女子」を綾瀬はるかが演じるってどうなの?と不安だった。しかし綾瀬の出世作となった『ホタルノヒカリ』(日本テレビ系)の雨宮蛍が、「干物女」という、恋愛がめんどくさくて私生活がだらしない女という、元祖こじらせ女子とでもいうような存在だったため、むしろハマり役だった。

『ホタルノヒカリ』もそうだが、男性主人公の作品でも『電車男』(フジテレビ系)や『モテキ』(テレビ東京系)など、奥手の男女を主人公にする恋愛ドラマが増えている。トレンディドラマが、恋も仕事も華麗にこなす男女の恋愛を描いていたのに対し、近年では、“自分には恋愛なんて縁がない”と感じている人間を主人公にした恋愛ドラマの方が支持されるようになってきているのだ。

 また、最近ではバラエティ番組に出演した際の綾瀬の振る舞いにも注目が集まっている。能年玲奈もそうだが、お笑い芸人が彼女たちのマイペースな振る舞いに翻弄されて、番組のトーンがおかしくなってしまうのが面白い。

 二人とも演技以外の部分では「超天然」のため、恋人というよりは、小動物を愛でるように視聴者から愛されている。普通に描いたら痛々しくなりかねない作品が、温かい目で見られるのは、綾瀬の持つフワフワした存在感によるところが大きい。

 一方、恋人役の福士蒼汰も、男としての生々しさは薄く、韓流スターのような甘い演技を見せている。

 入り口こそ痛々しい設定ながらも、一度作品の中に入ると、ファンタジーとしての楽しい職場恋愛が描かれているのが、人気の秘密だろう。

週刊朝日  2014年11月21日号