日銀が「さらなる量的緩和」を決定し、この決断が識者やマスコミに礼賛されたことについて、モルガン銀行東京支店長などを務めた藤巻健史氏は疑問を呈する。

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「天はドルの上に円を作らず円の下にドルを作らず」という諺があったかどうかを私は知らないが、今後、円安/ドル高はかなり進み、ひょっとすると異次元の円安/ドル高水準になる可能性さえあると私は思う。

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 双子の黒字(財政黒字と経常黒字)が視野に入った米国の通貨・ドルと、双子の赤字(しかも世界断トツの財政赤字)の可能性がある日本の通貨・円を比べれば円安/ドル高にならざるをえないと思う。

 加えて、もはやヘリコプターから降ってこなくなったドルと、今後ともヘリコプターから降り続いてくる円を比べれば、円安/ドル高は明白だと私は思うのだ。

 ましてや未来永劫に円紙幣が天から降り続き、円の希少価値がなくなるハイパーインフレ時代に日本が突入すれば円は暴落だ。

「為替レートは、各国の相対的な購買力に基づいて決定される」という購買力平価説で考えてみよう。

 タクシーの初乗り料金2キロが日本は700円で、米国が7ドル(チップまで入れれば当たらずとも遠からず、だろう)だから1ドル=100円なのだ。米国のタクシー料金が変わらず、日本の料金がハイパーインフレで7万円になれば1ドル=1万円となるはずだ。

 10月29日の米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和第3弾(QE3)に伴う資産購入の終了に続いて、31日、黒田東彦(はるひこ)総裁率いる日本銀行は「さらなる量的緩和」を決定した。「2%の消費者物価指数(CPI)の上昇を確実にする」ためだそうだ。

 その結果、日経平均はこの日755円56銭上昇し、為替は4円近く円安が進んだ。識者やマスコミは黒田日銀の決断を礼賛した。能天気すぎると私は思う。

 現在、日銀以外、国債の買い手はいない。民間の銀行や生命保険は国債を売りまくっている。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)でさえ国債の保有残高を総資産の60%から35%まで落とすと発表した。そういう状態のもとで、昨年の4月に日銀が宣言した「長期国債の購入」というコミット(約束)の期限が近付いてきている。「期限が来たから、日銀はもう国債を買わない(=国への融資をやめる)」となれば、来年度の国の財布は半分空となってしまう。税収と税外収入は歳出の半分にすぎないからだ。国の資金繰り倒産だ。他に買い手がいない以上、CPIが2%だろうが5%だろうが日銀は国債を買い続けなければならない。輪転機がグルグルまわり新しい紙幣が町にあふれ出ていく。

 今回の「さらなる量的緩和」の本質は国の「資金繰り倒産」の回避が目的であり、「マネタイゼーション」(財政ファイナンスのこと。国の発行した国債を中央銀行が引き受けることである)そのものなのだ。

「2%の消費者物価指数の上昇を確実にする」という理由づけは、そのカムフラージュにすぎない。市場が日銀の決定を「マネタイゼーション」と認識すれば、日本売りが起きる。円、債券、株の強烈なトリプル安だ。

 いまのところ、ばれなくて済んだようだが、今日ばれるのか、明日ばれるかの差にすぎない。ばれるのが遅くなればなるほど破裂のマグニチュードは大きくなる。ハイパーインフレによる円暴落は想定外だとは言えない、と思いませんか?

週刊朝日  2014年11月21日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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