10月27日、エボラ出血熱が疑われる患者について会見する塩崎厚労相 (c)朝日新聞社 @@写禁
10月27日、エボラ出血熱が疑われる患者について会見する塩崎厚労相 (c)朝日新聞社 @@写禁

 厚労省によると、東京空港検疫所支所からエボラ出血熱が疑われる患者の報告があったのは10月27日午後4時ごろ。男性には西アフリカの滞在歴があり、羽田空港に到着時に発熱していたため、指定医療機関の国立国際医療研究センター(東京都新宿区)に搬送。採取した血液は、検査のため国立感染症研究所・村山庁舎(東京都武蔵村山市)に送られた。

 緊張の夜が明けた翌朝5時過ぎ。厚労省が同研究所から報告された検査結果は「陰性」。男性は2度目の検査でも陰性で、熱もないことから、30日未明に同センターを退院した。

 わが国で、西アフリカでのエボラ出血熱の感染拡大が報じられはじめたのは、今年の春ごろ。対岸の火事だったが、今回、日本にエボラウイルスが上陸する可能性がゼロではないことが、改めて証明された。

 感染に詳しい専門家からすると、日本で患者がエボラ出血熱と診断されることは想定内。国際感染症センター感染症対策専門職の堀成美氏は、こう話す。

「7月末にリベリアから空路でナイジェリアに移動した男性が、エボラ出血熱で亡くなった。そのときには“飛行機でより遠くの国に広がる可能性”を本気で考えました」

 何より衝撃だったのは、9月20日にアメリカに渡航したリベリア人男性がエボラ出血熱を発症し、男性を治療した看護師2人が二次感染したことだという。ニューヨークでも国境なき医師団の活動に参加した30代の男性医師が、ギニアから帰国後、エボラ出血熱を発症。発症前には地下鉄に乗り、ボウリング場にいたことが報道され、ニューヨークの街が騒然となった。

 そして日本での騒動である。感染が疑われた男性は、検疫所で自ら申告して体温測定を実施した。厚労省の健康局結核感染症課によると、現在、エボラ出血熱の発生国(ギニア、リベリア、シエラレオネ、コンゴ)からの入国者には検疫官が聞き取りを実施し、発熱などの症状からエボラ出血熱が疑われる場合は、隔離措置を行う。健康上問題のない人は、最長のウイルス潜伏期間21日間は、1日2回(朝と夕方)体温を測り、報告することになっている。

 ただし、検疫には強制力がない。「今回は理想的なストーリーだった」(感染症の専門家)が、地方のどこかの医療機関を、エボラ出血熱の患者が突然、受診する可能性もある。

 その場合、どうしたらいいのだろうか。

 堀氏は、「衛生環境が悪く、医療も充実していない国の事情を、そのまま日本などの医療先進国に当てはめることはできない」と話す。

 エボラウイルスを研究する人獣共通感染症リサーチセンターの髙田礼人氏(北海道大学教授)も、「流行地域からの入国者を追跡し、感染者を隔離もできるはずなので、日本とアフリカとでは、状況はまったく違う」と言う。

 自治医科大学(栃木県下野市)感染制御部長の森澤雄司准教授は、具体的な例を挙げる。

「1976年の南スーダンや旧ザイールで起こったエボラ出血熱の集団感染は431人の死者を出しましたが、結果的に終息した。今回の流行でもナイジェリアに(最長潜伏期間の2倍にあたる42日間、新しい患者が出ていないため)終息宣言が出た。先進国で感染が広がり、ひどい状況になるとは考えにくい」

週刊朝日 2014年11月14日号より抜粋