来年度も赤字予算が組まれる中、膨らみ続ける日銀の国債購入。そんな現状に"伝説のディーラー"と呼ばれた藤巻健史氏が危機感を募らせる。

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 小学校時代、二人は級長を競いあった仲。いわば人気者決定戦である。当時の人気は女性に対しては私の方が分があったと自負しているが、男性に対する人気は勉強ができて当時から親分肌の宮沢君であった。石炭だるまストーブが鎮座していた教室、台風にとじこめられた清里林間学校、涙も鼻汁も一緒くたになるまで笑いこけた館山臨海学校。セピア色の思い出は尽きない。アァ我が附属小学校!──。

 以上は、2002年1月号の文藝春秋の記事「同級生交歓」に書いた私の拙文の一部だ。宮沢洋一君と私は東京教育大学附属小学校・中学校で9年間同じクラスだった。

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 小渕優子前経済産業大臣の辞任を受けて宮沢洋一参議院議員が大臣に就任したニュースを聞いて、秘書で長男のケンタが言った。

「1カ月前までお父さんは、経済産業委員会に所属していたよね。お父さんが質問に立ち宮沢大臣が答弁をする。なんだ、学級委員会の延長じゃないか」

 いや、少し違う。当時は私が級長で彼が副級長だった。立場が逆だったのだ。

 所属する党は違うが、まずは宮沢君におめでとう!だ。原発事故処理をはじめ日本のためにぜひ頑張ってもらいたい。

 私のほうは、経済産業委員会から財政金融委員会に移り、10月16日に第1回の質問をした。

 日銀は昨年3月末の91.3兆円から今年6月末の166.7兆円まで長期国債の保有額を75兆円も増やした。異次元の量的緩和のために国債を大量に買い増したのだ。一方、民間銀行、公的年金、生命保険はそれぞれ46兆円、4兆円、1兆円減らしている。国は、もはや国民が労働などで得たお金を銀行経由で借金をしているのではない。日銀に紙幣を刷ってもらって、その分で借金を賄っていることになる。

 今年末に、190兆円までの長期国債購入という日銀のコミット(約束)は終わる。その一方、来年度も四十数兆円の赤字予算が組まれる。誰かが国債を買い増さなければならない。国債を誰も売らなければ大丈夫という話ではない。

 1998年12月、大蔵省(当時)の資金運用部という国債の大手買い手が撤退するというニュースで国債は暴落(=金利急騰)した。「運用部ショック」という。当時の資金運用部は今の日銀と比べるとはるかに小粒の存在だったにもかかわらず暴落した。日銀ほどの超大手が購入をやめたら暴落は必至だ。そんな国債を誰が代わりに買うのだろうか?

 結局は来年以降も日銀が国債購入を続けざるを得ないだろう。運用部ショックの際、当時の速水優日銀総裁は「日銀の長期国債の保有は今の50兆円でも大きすぎる」と買い増しを拒否した。そんなことを黒田東彦(はるひこ)日銀総裁は忘れたのか。

 現在は179.8兆円(9月末)にまで保有が膨らんだ。それがまだまだ大幅に増やさざるを得ないのだ。

 米国のノーベル経済学者のクルーグマン博士が「日本をインフレにするのは簡単だ。日銀がヘリコプターで紙幣をばらまけばよい」といった。その通りのことを、日銀は続けるつもりなのだろうか? 「ハイパーインフレは来ない」と断言された黒田総裁、麻生太郎財務大臣、本当に大丈夫なのですね?

週刊朝日  2014年11月7日号より抜粋

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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