施行開始が間近となった特定秘密保護法。ジャーナリストの田原総一朗氏は、その危険性を再度説く。

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 特定秘密保護法の運用基準が閣議決定されて、12月10日に施行されることになった。

 こう書いただけで、もう読むのがイヤになる人が多いのではないか。昨年末に国会で、なぜか大急ぎで成立させたこの法律には、実は危ない部分が多く、国民の知る権利が恣意(しい)的に侵される危険性が強い。私たちの取材の自由も狭まり、うっかりすると厳罰を食う危険性が高いのだ。

 秘密法は行政機関のトップの判断で、防衛や外交、テロ防止、スパイ活動防止について国が所有している情報を特定秘密に指定できる。ということは、行政にとって不都合な情報を官僚たちが恣意的に「特定秘密」として国民に知らせなくできるわけだ。国民に知られると都合の悪い情報は意のままに隠すことができる。それをさせないためには、運用を厳しくチェックする仕組みが必要だ。

 政府は、恣意的な秘密指定ができないようにするため、運用を監視する仕組みを設置したと発表した。それが内閣府に新設される独立公文書管理監と、そのスタッフにあたる情報保全監察室なのだという。

 なんだか、読むのも憂うつになる難しい名称だが、それは我慢しよう。だが、これらの仕組みが、どれほどチェック機能を果たし、恣意的な秘密指定を阻止できるのか。 

 独立公文書管理監は、審議官クラスの官僚たちを首相が指名し、秘密の指定や管理が運用基準に合っているかどうかを検証、監察することができる。省庁に資料提出や説明を求め、不正があれば、指定解除なども要求できる。

 こう書くと、チェック機関として機能しそうだが、運用基準には、省庁が「わが国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ」があると判断すれば、資料提出などを拒否できるとなっている。恣意的な秘密指定を検証さえできない懸念があるわけだ。

 米国にも、似たような役割を持つチェック機関があるが、こちらは行政機関への秘密解除請求権が保障されていて、日本に比べると権限が格段に強い。つまりチェック機能で勝っているのである。

 それに日本の場合は、名称こそ独立公文書管理監とはいえ、内閣府の中に設けられていて、しかも管理監は局長より下の審議官クラスであり、それで省庁のお目つけ役が担えるのか、はなはだ疑問である。

 また、監察室の職員は省庁から出向するわけだが、その後の人事で出身省庁に戻らないという、いわゆる「ノーリターンルール」がなく、いよいよ独立性は怪しくなる。

 さらに、省庁が秘密指定を解除した文書のうち、指定から30年以下の文書は、首相の同意で廃棄が可能であり、後に検証が必要となっても不可能になりかねない。

 民主主義の国では、国の情報は国民に公開するというのが原則だが、特定秘密保護法は、現在の状態ではそれが侵される危険性がある。

 繰り返し記す。特定秘密保護法は、解説を読んでもわかりにくく、チェック機能についても、どうすれば危険性がなくなるのか確認が難しい。政府の説明も不十分であり、国会で十分審議する必要がある。その点では、野党に頑張ってもらいたい。

 自民党は政権を担っているため、できる限りスムーズに12月10日を迎えたいと考えているのだろう。だが仮に今後、自民党が野に下った場合には、恣意的運用ができる秘密法では危なっかしいのではないか。

週刊朝日  2014年10月31日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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