来年の手帳、どうしますか? 実は手帳の市場は拡大傾向にあるという。

 リタイアしてからも手帳を手放さない人の多いシニア世代が手帳をつける動機は何だろうか。九州在住の専業主婦(68)が愛用するのはA5判の赤い手帳で、見開きで1週間分を記せるスタイルだ。長年キッチンのカレンダーに予定を書き込むだけで十分だったが、還暦を迎えて、自分のスケジュール帳を持つようになり、そこに3行日記をつけ始めた。内容は、感じたことや些細な出来事で、空白にちょこっとメモする。きっかけは母親の認知症だった。

「私もいつか何もかも忘れてしまうかもしれないが、この手帳が覚えてくれていたら、何かのヒントになると思って。日々の軌跡を残したいんです」

 前出の「ほぼ日手帳」の愛用者は最高齢が95歳で、「単にスケジュールを管理するのではなく、日々の生活を記録する『日記的』な使い方が目立ちます」と広報担当者は明かす。

 こうしたニーズに応えるのは高橋書店の人気商品、1ページ2日記入式のダイアリーだ。A5判で1日分が半ページと広く、日記としても使えると好評だという。

 もう一つ、シニアが手帳をつける動機になっているのが「健康管理」だ。

 今年発売された「ペイジェム ココロカラダ日誌」(日本能率協会マネジメントセンター)はシニア層がメーンターゲットで、食事・運動・睡眠を毎日チェックできる欄を設けた。また「楽しかったことを書いたり振り返ったりして笑う機会を増やし、病気の防止につなげたい」(同社開発担当)と、その日のハッピーな出来事をつづる欄や、週ごとに体の気になるところを書き込める人体図も。

 シニアは見る文字も書く文字も大きくなるので罫線の間隔も広めだ。項目が細かく分かれていたりスペースが大きすぎたりすると「続かない」という声を反映して、自由度を高くした。そうした工夫が注目され、女性だけでなく、60代以上の男性や社員の健康管理用として、まとめ買いする企業の幹部もいるという。

 病気と向き合う世代こそ、手帳が“生かせる”例も。

 福岡県の主婦(68)は、3年前からアレルギー症状に悩む。ふとしたときに顔が真っ赤になり、かゆくなったり、唇が腫れたり。でも診察に行くころには治まっていて、医師に説明しようとするが、うまく伝えられない。そこで症状がひどいときのことを手帳にメモするようになった。おかげで通院時の意思疎通が楽になったという。

 病気といえば「がん」は身近だが、最近は入院しないで治療を受ける患者の数が増え、家にいる状態を医療者は把握しにくくなっている。「特に、患者さんたちは本当につらかったときの症状を忘れていることが多い」と明かすのは東京慈恵会医科大腫瘍・血液内科教授の相羽惠介医師だ。だから通院時にも当然、医師に上手に伝えられない。そこからコミュニケーションがぎくしゃくし始める。

 そんな状況をなんとか改善したいと、相羽医師は今夏、『メモするだけでラクになる「がん手帳」のつけ方』(WAVE出版)を出版した。市販の手帳にその日の体重や元気度、薬の名前、食事量などを記入することを提案し、余白に楽しかったイベントのチケットなどを貼ることもすすめる。つらい治療に耐える目の前の患者たちに、自分の言葉で書くことで、症状を客観的に見られると伝えるのが目的だ。がん患者以外にも、健康管理や家族間でのコミュニケーションにも使えると静かな話題を呼ぶ。

 このように健康管理やマネーなどの“目的”に特化したタイプの手帳が登場する一方、前出の舘神さんは、「ビジネスマン向けでもシニア世代は使いやすいんですよ」と話す。

週刊朝日 2014年10月31日号より抜粋