ドラマ評論家の成馬零一氏がEXILEの松本利夫主演の“男臭い”ドラマについて、こう論じる。

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 日本テレビ系で木曜深夜(11:59~)に放送されている『ビンタ!~弁護士事務員ミノワが愛で解決します~』は、EXILEの松本利夫が主演を務めるヒューマンドラマだ。

 松本が演じるのは、パソコンが使えず、法律の知識も皆無のミノワこと箕輪文太。元暴走族で、ヤクザまがいの仕事をしていたミノワは異母兄妹のカナ(原菜乃華)といっしょに暮らすためにカタギの仕事に就こうと駆け回り、なぜか工藤法律事務所の弁護士事務員に採用される。しかしそれは、ミノワを利用してトラブルを起こし、同僚の弁護士・高田夏美(山口紗弥加)をやめさせようとする工藤洋平(西村雅彦)の策略だった。

 案の定、ミノワは弁護士事務員としての守秘義務をあっさり破り、遺産相続でもめていた兄妹の協議を台無しに。だがその破天荒な行動が兄妹のわだかまりを解消し、そんなミノワを高田が認めてパートナーとして行動するようになる……。

 何と言うか、ここまで男臭いドラマは極めて異例だ。余計な理屈は一切なく、ミノワの「やりすぎぐらいなのが、丁度いいのよ!」という決め台詞は、このドラマの豪快さを物語っている。また、毎回、ミノワが、“愛のあるビンタ”をする場面があり、どのタイミングでビンタをするかが見どころだ。

 近年、EXILEに対する注目が高まっている。ダンス&ボーカルユニットとしてAKB48や嵐に次ぐヒットを次々飛ばす一方で、自前のダンススクールを経営し、多角的に事業を展開するEXILEの勢いは年々拡大。その流れはテレビドラマにも表れており、中でも俳優として注目されているのが『GTO』の主演を務めたAKIRAと、松本利夫だ。

 松本がドラマファンの間で大きく注目されたのは、『ご縁ハンター』(NHK)で婚活をするが女性とのコミュニケーションが苦手で中々モテない情けない男を演じたことがきっかけだった。前クールの『同窓生~人は、三度、恋をする~』(TBS系)では、妻にモラルハラスメントをする夫の役を演じ、中々の存在感を見せていた。DV夫を演じた松本が毎回ビンタの場面があるドラマに出演するのはイメージダウンにならないか、と当初は心配したが、『ビンタ!』は思った以上に爽快感のある話となっている。正義感は強いが頭の悪いあんちゃんが、勢いで行動することで結果的に状況が開けていく。これは昔からよくあるパターンだが、背景が丁寧に描かれているためか説教くさくはない。

 また、年長世代ではAKIRAや松本利夫、若手世代なら劇団EXILEの鈴木伸之といったEXILE系の俳優がテレビドラマで活躍する背景として、線が細くて甘いマスクのイケメン俳優が飽和状態になりつつあることも無関係ではない。そんな中、肉体労働が似合う男っぽい俳優が不足しているというエアポケットに、EXILEがうまくハマりつつある。

『木更津キャッツアイ』の脚本家・宮藤官九郎とうまくコラボしているジャニーズに較べると“これぞEXILEドラマ”という代表作は、まだ生まれていない。だが、本作やMAKIDAIが主演した『町医者ジャンボ‼』を見ていると、長渕剛が主演した『とんぼ』や『しゃぼん玉』のようなドラマを思い出す。長渕がかつて体現した男臭いドラマの路線が、今後のEXILEのドラマの本流となっていくのかもしれない。

週刊朝日  2014年10月24日号