ドラマ評論家の成馬零一氏が先日スペシャル版の放送された『マルモのおきて』について、こう論じる。

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 2011年にフジテレビ系で放送された『マルモのおきて』は、文具メーカーに勤める30代独身男性の高木護(阿部サダヲ)がふとしたきっかけから、薫(芦田愛菜)と友樹(鈴木福)という双子の子どもと、喋る犬のムックと暮らすことになるコメディタッチのホームドラマだ。

 この9月28日に、3年ぶりの続編となる『マルモのおきてスペシャル2014』が放送された。薫と友樹は10歳になり、護にはマレーシアへの海外赴任の話が持ち上がる。海外赴任をきっかけに、護は1年後に2人を実の母親(鶴田真由)の元に帰そうと思う。そして、残り少ない時間で最後の思い出をつくろうとして、アイドルになりたい薫をタレント養成学校へ通わせ、好きな女の子ができた友樹のために、一緒にラブレターの文面とプレゼントを考える。しかし物事は中々うまくいかず、3人の気持ちはすれ違ってしまう……。

 連ドラ当時は大ヒットした『JIN−仁−』の完結編(TBS系)と同じ放送枠だったこともあり、地味なスタートだった。だが徐々に視聴率を伸ばして、最終話では平均視聴率23.9%(関東地区)を獲得。同年10月に続編のスペシャルドラマが放送された。

 ヒット要因については、東日本大震災直後だったためにハートウォーミングな物語が受けたとか、芦田愛菜と鈴木福が歌う主題歌「マル・マル・モリ・モリ!」が子どもに受けたこと等が語られたが、何より独身男性にとっての“ファンタジーとしての子育て”を描いたところが画期的だった。

 僕は一人暮らしをする30代独身男性だったので、護の立場からドラマを見ていたのだが、自分から遠い世界の出来事に見えることで、逆に「子どもがいたら楽しいかも」と思えた。もちろん、突然、子どもを育てる立場になったらどれだけ大変か頭ではわかっているが、子育ての苦しさよりも楽しさを中心に描いたからこそ、多くの人に受け入れられたのだろう。

 

 また、イケメン俳優ではなく、阿部サダヲが護を演じたことも大きい。阿部サダヲは、松尾スズキが主宰し、『あまちゃん』の脚本家の宮藤官九郎らが所属することで有名な劇団・大人計画の看板俳優だ。どんな役を演じても、独特の情けなさというか、人間臭さがにじみ出る俳優で、犯罪者や、アクの強い小悪党を演じることが多かった。そんな阿部が演じるからこそ30代独身男性のリアリティが生まれたのだ。

 それにしても、3年ぶりの新作を見て驚いたのは芦田愛菜と鈴木福の成長だ。特に芦田愛菜は女っぽさが出てきて、子役でいるには今がギリギリだと感じた。面白いのは、2人の成長がそのまま物語とリンクしていること。子どもたちが少しずつ大人になり、無邪気でいられる時間が終わりつつあるのを実感してしまう。

 もちろん、『北の国から』(フジテレビ系)の純と螢のように、思春期から大人になっていく2人の成長に合わせて青春ドラマに変えるという選択肢もある。しかし、どちらにせよ、3人の間にあるユルい居心地の良さが失われるのは明らかだ。

 結局、今回のスペシャルでは出張の話はなくなり、3人の関係は元に戻るのだが、1年後に親元に帰すという約束は残ったままだ。おそらく来年あたりに作られるであろうスペシャルが完結編となるのだろうが、その日のことを思うと、テレビの前のお父さんとしては、今から泣きそうだよ。

週刊朝日  2014年10月17日号