女性に多いと思われがちだが、男性も高齢になると悩む人が増える便秘。消化器の専門医として便秘の治療に長年携わり、日本神経消化器病学会理事長でもある公立黒川病院(宮城県)管理者の本郷道夫(ほんごうみちお)医師に、その現状や今後の治療方法の展望について聞いた。

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 治療現場の実感として成人の5人に1人は便秘で悩んでいるようです。30代より下の世代だと、女性の割合が圧倒的に多いのですが、年齢が高くなるにつれて男性の割合が増え、「国民生活基礎調査」を見ると、80代では男女半々になります。

 便秘は、加齢による腸の機能の低下で便を運ぶ収縮運動が弱くなったり、腸の形が異常をきたしたりすることなどで起きます。若い女性の場合は、不規則な生活で毎朝きちんと排便する習慣が身につかず、次第に便意を感じづらくなって便秘になる人が多いようです。

 最近の研究では、化学肥料を使った野菜や保存料を添加した食品により、腸内細菌の環境が変化していることが影響していると指摘されています。また、精神の発達障害が腸の神経の発達にも影響して、便秘になることもわかってきました。

 腸の機能の低下による便秘の治療で一般的に使われているのが、腸の中に水分を集めて便をやわらかくする酸化マグネシウムです。また、12年11月に国内で32年ぶりの便秘治療の新薬として「アミティーザ」が使えるようになりました。小腸から水分の分泌を促進する作用があって、酸化マグネシウムでは効果の薄い中度や重度の患者さんでも、自然に排便できるようになりました。

 一方、大腸がんで便の通りが悪くなったための便秘は、その治療が必要になります。最近では、腟のほうへ直腸が膨らみ、そこに便がたまってしまう「直腸瘤」に対する認識も高まってきました。このケースでは、直腸を修復する手術がおこなわれます。

 現在、海外で、便をやわらかくする作用に加えて腹痛も軽減する効果のある「リナクロチド」、腸の動きを活発にして自然な排便を促進する「プルカロプリド」という新薬の開発も進められています。一方、健康な人の便をフィルターでろ過して、よい腸内細菌を集めた液体を病気の人の腸に入れる「便微生物移植」の研究も進められています。

週刊朝日  2014年10月17日号