輸入フルーツの値段もじわじわ上がり始めている (c)朝日新聞社 @@写禁
輸入フルーツの値段もじわじわ上がり始めている (c)朝日新聞社 @@写禁

 急激な円安で儲かっているのは大手の輸出企業だけ。輸入している穀物や燃料の価格は上がっており、これからは値上げラッシュを覚悟しなくてはいけない。給料は上がらないのに、消費税増税、社会保障費の負担増、そして円安と、国民の生活には“三重苦”が待っている。

 静岡大学の土居英二名誉教授(経済統計学)が言う。

「今年4月に消費税が8%に上がりましたが、消費税増税分よりも円安による家計負担のほうが大きく、二つを合わせるとかなりの負担増になります」

 第2次安倍政権発足前の為替レートの平均値は1ドル=79円台。これと比較して1ドル=110円、120円になったとき、家計負担はどれだけ増えるのか土居氏に試算してもらった。

 年収別に家計負担額を調べると、1ドル=110円の場合、年収300万円(2人以上世帯)で年12万6898円増、年収500万円で年15万8109円増になった。

 年収が多くなるほど、負担する額も増える。しかし、年収に対する「負担率」は、年収300万円の世帯では4.2%なのに対して、年収1千万円では2.2%と、年収が高い層ほど負担率は低い。消費税増税と同じ「逆進性」が起こる。円安は低所得者に影響がより大きい。

 年金暮らしの高齢者の生活にも大打撃を与える。

 世帯主の年齢別に家計負担額をまとめると、65~69歳の2人以上世帯は16万7962円の負担増になる。70歳以上では、13万8871円増。なんと国民年金2カ月分の額に相当するのだ。ちなみに、70歳以上の家計の年間負担額が、65~69歳と比べて3万円ほど下がっているのは、年金生活で切り詰めた生活をしているからだという。

 では、1ドル=120円の「超円安」が訪れたら、どうなってしまうのか。土居氏によると、年収300万円の世帯では、負担額は年16万7109円、年収500万円の世帯で年20万8155円にもなる。1ドル=110円のときと比べて、それぞれ4万円、5万円負担が増える。

「今現在の家計支出をもとに算出しているので、最も負担が増えた品目は燃料費の高騰を受けた電気代、ガス代、ガソリン代を含む自動車等関係費でした。食料品の中では、輸入価格とともに値段が上がった肉類、乳卵類が続いています」(土居氏)

 消費税が10%になったら、一体どれだけ負担が増えるのか、考えるだけでも背筋が凍るが、12年9月、内閣官房社会保障改革担当室が、10%に引き上げられた場合の家計負担の試算をまとめていた。

 これによると、年収500万円の4人家族(会社員の夫、専業主婦の妻、子ども2人)で、消費税増税による負担増は年間11万5千円。年金・介護保険など社会保険料の見直しや、子ども手当から児童手当の移行、住民税年少扶養控除の廃止などを含めると年間33万8千円にもなることを明らかにしていた。

 1ドル=110円の負担分と合わせると年50万円にもなる計算だ。

 年金の給付額は毎年カットされ、物価上昇分を差し引いた8月のサラリーマンの実質賃金は前年同月比2.6%減で、14カ月連続のマイナスだった。経済ジャーナリストの荻原博子氏は憤る。

「賃金は上がっていないのに、消費税増税だけでなく、社会保障費増、円安と国民の生活は三重苦になってしまいます。アベノミクスは失敗だったと早く気づき、対策を打たなければ来年以降、国民の生活はさらに苦しくなり、景気は悪化します」

 節約しすぎてこれ以上カットできるところはない――。国民の悲鳴は安倍政権に届くのだろうか。

週刊朝日 2014年10月17日号より抜粋