力んでもなかなか便が出てこず、次第に腹部に張りを覚えたり、不快感がつきまとったりするようになる便秘。多くの人が悩む便秘の原因は、腸の機能の低下や腸の形の異常などさまざま。いまでは新薬や新しい手術による治療がおこなわれている。

 排便が1週間なくても便秘と自覚しない人がいる一方で、毎日排便があるのに便秘を訴える人がいるように、便秘の自覚は人によって大きく異なる。明確な定義はないが、(1)排便が困難で週2回以下になる、(2)便が残っている感じを覚える、(3)腹部が張るなどの不快感や腹痛がある──といった症状が現れると、便秘と診断されることが多い。ウサギの糞(ふん)のような丸いコロコロした便や、ソーセージ状の硬い便が出るのも特徴だ。

 そのなかでも、排便が週2回以下に減る状況が3カ月以上続くものが「慢性便秘」だ。小腸や大腸の便を押し出す機能の低下のほかに、持病の糖尿病、神経疾患、膠原病(こうげんびょう)などが原因になったり、抗うつ薬やモルヒネの投与で引き起こされたりもする。さらに、腸閉塞(ちょうへいそく)、腸捻転(ねじれ)や、大腸がんによって腸の管がふさがれて、便の通りが徐々に悪くなるケースもある。

 埼玉県川口市に在住の大橋恒治さん(仮名・84歳)は2013年の春から糖尿病で重度の腎機能障害を起こし、さらに心房細動も併発して、かかりつけのクリニックから済生会川口総合病院の腎臓内科と循環器内科を紹介された。その治療の過程で、4日以上も排便がない状態が数カ月間も続き、排便しようと無理に力むと血圧が上がって心房細動によくないことから、同年冬に消化器内科の診察を受けることになった。診察を担当した院長の原澤茂医師は次のように語る。

「大橋さんは、糖尿病で人工透析に進む一歩手前でした。当院は、川口市とその近隣地域の中核病院となっていますが、消化器内科で便秘の治療を受ける患者の大半は糖尿病などを合併した人たちです」

 もともと健康的な排便には、ある程度のカロリーや脂質が必要なのだが、糖尿病の治療でそれらの摂取が制限されると慢性便秘になってしまうことがある。そこで治療の第1段階は、糖尿病に影響が出ない程度にカロリーが低く、脂質も少ない、食物繊維を多く含んだ食物の摂取の指導になる。

 しかし、大橋さんの症状は一向に改善しない。複数の持病があるうえに、便秘で不快感を覚えると、精神的にも落ち込む。並行しておこなわれた大腸の内視鏡検査では、幸いなことに、がんでないことがわかった。

「治療の第2段階は下剤の投与です。これまで慢性便秘の治療で一般的に使われてきたのは酸化マグネシウムでした。しかし、大橋さんのように腎機能障害があると、からだのなかにマグネシウムがたまって、高マグネシウム血症を引き起こし、呼吸不全や心停止などに至ることがあります。そこで選択したのが、12年から国内で使えるようになった『アミティーザ』でした」(原澤医師)

 アミティーザは小腸の粘膜を刺激して水分の分泌を促し、便に含まれる水分量を増やすことで、便通をスムーズにする薬。水分量が増えることで便のかさが大きくなり、腸が便を押し出そうとする動きを活発化させる効果もある。臨床試験の段階では、慢性便秘の患者の60~75%に、投薬から24時間以内に自発的な排便が認められている。

「朝と夕方に1カプセルずつの投与を2週間続けて経過を観察することにしました。その結果、『快便が続き、精神的にも落ち着きました』と、大橋さんは笑顔で話すようになりました。それから1カ月経過しても排便の状態はよく、いまでは元の診療科に戻って、そちらでアミティーザを処方してもらっています」(同)

 薬の値段は、酸化マグネシウムが1錠あたり5.6円であるのに対して、アミティーザは1カプセルあたり30倍近い161.1円。しかし、高マグネシウム血症などの重篤な副作用を引き起こさず、慢性便秘の治療薬として選択されることが医療現場では増えている。

 前述の腸閉塞や大腸がんによる便秘は、腸の形が変わって便の通りが悪くなることで引き起こされるが、最近知られるようになったのが、同じような腸の形の異常で、出口の肛門とつながっている直腸がポケット状に膨らんで腟の側へ突出する「直腸瘤(ちょくちょうりゅう)」だ。直腸と腟(ちつ)との間にある壁が加齢にともなって弱くなることが主な原因で、50代以降の出産を経験した女性に多い。

週刊朝日  2014年10月17日号より抜粋