「英国のエネルギー政策ははっきり言って失敗している。政府と産業界の原子力コミュニティーの力が強く原発に固執しているが、電力民営化後に国策で作られた原発会社が破綻しているし、再生可能エネルギーの導入も欧州の中では立ち遅れている。CfDも原発維持のための苦し紛れの制度で、まだ何の実績もなく、検証もされていない。手本にすべきとは思えません」

 突如降って湧いたかにみえる“原発救済計画”だが、実は12年12月の安倍政権誕生直後から、水面下の動きは始まっていたという。

 13年2月に経産省の電力システム改革専門委員会が発表した報告書には、こんな文言がさりげなく盛り込まれている。

<自由化後の電力市場において活発な競争を促す観点から、原子力安全政策や、原子力政策をはじめとするエネルギー政策を含め、何らかの政策変更等に伴い競争条件に著しい不利益が生じる場合には、これを緩和するための別途の政策的措置の必要性や内容を検討する>

 わかりにくい言い方だが、電力システム改革によって電力会社が不利益を受ける場合、国がフォローするということである。

 さらに、今年4月に閣議決定され、原発を「重要なベースロード電源」と位置付けたエネルギー基本計画の中にも、こんな文言が入っていた。

<電力システム改革によって競争が進展した環境下においても、原子力事業者がこうした課題に対応できるよう、海外の事例も参考にしつつ、事業環境の在り方について検討を行う>

 海外の事例も参考にするとは、今回検討され始めた英国などの事例を思わせる。元経産官僚の古賀茂明氏が語る。

「電力自由化後に原発が維持できないことは原発推進派もわかっていたはずだが、本当のことを言えば『それなら原発をやめろ』と言われてしまう。エネルギー基本計画で原発維持が保証されたことで安心して、ようやく表立って救済策の必要性を言い始めたのでしょう」

 ちなみに、エネルギー基本計画の中では原子力発電を「発電(運転)コストが低廉」と称賛しているが、建設コストや廃炉コストには触れていない。こうした“トリック”には注意が必要だ。

「英国の原子力事業者にCfDがなかったらどうするか聞いたら、『リスクとコストが高いから原発は建設できない』とハッキリ言っていた。日本でも同じ制度を導入したいなら、原発のコストをきちんと調査して情報公開した上で、国民の合意を得る手続きが必要なはずです」(前出の大島教授)

 原発の本当のコストをあいまいにしたまま、国民に請求書だけ回すことは許されない。

(本誌・小泉耕平)

週刊朝日  2014年10月10日号より抜粋