4月に消費税が8%に引き上げられ対応に追われたスーパー (c)朝日新聞社 @@写禁
4月に消費税が8%に引き上げられ対応に追われたスーパー (c)朝日新聞社 @@写禁

 2012年8月に成立した消費増税法では、今年4月に税率を8%に引き上げたことに続き、来年10月にも10%に再増税すると定められている。しかし、再増税見送りの声が日増しに高まっている。私たちはどちらを選ぶべきなのか──。増税しなければならないと主張するのは、BNPパリバ証券チーフクレジットアナリストの中空麻奈氏だ。

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 消費税を今年4月に8%、来年10月に10%にすることはすでに法律で決まっていることです。にもかかわらず、ここで再増税を断念するのは大きなリスクです。国内、国外にかかわらず、投資家は“裏切り行為”に厳しい。財政再建が遠のけば、日本への投資に悪影響が出るのは必至です。

 今年4月の増税で景気の落ち込みがあり、それを理由に再増税の延期を主張する声もあります。しかし、それは当初から予想されていたことで、マーケットも織り込み済み。リーマンショックのような大きな経済危機でない限り、予定どおり再増税すべきです。

 財政出動の話も出ていますが、仮に財政出動をしながら再増税断念となれば、最悪のパターンです。財政規律はさらに悪化し、格付け機関は日本国債の格下げに動き始めるでしょう。

 たしかに、景気回復で税収を増やし、増税なしに財政再建できればいい。ですが、それは高度経済成長期であれば可能だった話で、近い将来にそんな時代が再び来るとは思えません。

 つまり、景気回復と消費税増税の議論は対立構造で考えてはいけないのです。身近な例にたとえると、知人が借金を抱えているとします。すると、まずは支出を減らし、それを返済に回すようアドバイスしますよね。「給料の高い会社に転職しろ」と言う人はいないでしょう。収入を増やすのはいいことですが、給料が上がるのを待つ前に、返済額を増やすのが前提なのです。

 日本の借金はすでに1千兆円を超えています。2040年には4千兆円になるとの試算もあります。消費税を10%に引き上げても、財政再建の道のりはまだまだ厳しい。現実論として、景気回復と消費増税は同時に進めるしかありません。

 また、これ以上財政再建が遅れると、世代間の格差がさらに広がります。そうなれば、若者が税金を払っても高齢者に回るだけだと不満を持つでしょう。日本を、若者と高齢者が敵対する国にしてはいけないのです。もちろん、消費税増税によって貧困に苦しむ人が増えることはあってはなりません。政府は、再増税とともに、効果的な格差是正対策を打ち出す必要があります。

 消費税増税は、これからの日本を担う子どもたちが生きていくために、避けては通れない道です。高度経済成長時代に作られた社会保障制度は限界に来ているのに、それを放置した責任は今の大人たちにあります。みんなで負担を分かち合わなければなりません。

 結局のところ、日本が財政再建していけるのかどうか、その実行力が問われているのです。世界中の市場関係者もその点を注意して見ています。

週刊朝日 2014年10月10日号