住宅なのか介護施設なのか――。

 高齢者の新たな受け皿として、いま注目を集めているサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)。高齢者が安心して居住できる賃貸住宅として全国で急増中だが、「これまでの有料老人ホームなどとどこが違うのか、よくわからない」という声は多い。

 サ高住は2011年10月から始まった比較的新しい制度だ。バリアフリー構造であること、居室の床面積が原則25平方メートル以上あること、安否確認・生活相談サービスを提供することなどが条件となる。14年8月末現在、サ高住の数は4871棟、計15万6650戸に上る。管轄する国土交通省と厚生労働省は10年間で60万戸を整備する目標を掲げており、戸数は右肩上がりで増加している。

 サ高住は基本的には元気なうちから入居ができ、介護が必要になったら外部の介護保険サービスを受けることが可能だ。この点は、住宅型有料老人ホームにも共通する特色である。

 高齢者住宅情報センター・大阪センター長の米沢なな子さんは、

「しかし実態は、介護が必要な人向けの賃貸住宅が多く、ほとんどのサ高住は実質的に介護施設になっているといっていいかもしれません」

 と語る。

「特定施設」の指定を都道府県から受けて「介護付き」と名乗ることのできる有料老人ホームは、ホームのスタッフが介護保険サービスを提供するのが最大の特長である。だが、サ高住のなかにも特定施設に指定されているところがあり、その場合は介護付き有料老人ホームと同様に内部スタッフから介護保険サービスを受ける仕組みとなる。

 このように、ほかの高齢者ホームと似ていることも多いため、一般の人が混乱するのも無理はない。

「サービス付き」という言葉がさらに誤解を助長しているとの指摘もある。

 サ高住に義務づけられているサービスは、安否確認サービスと生活相談サービスの二つのみだ。ケアの専門家が少なくとも日中は建物に常駐しなければいけないが、そのほかのサービスは各サ高住の裁量に委ねられている。義務づけられている最低限のサービスしか備えていないところもあれば、食事や介護、医療、生活支援の各サービスが併設・提供されているところもある。

 介護や食事など付随していないサービスについては、サ高住に入居する人は必要に応じて外部の事業者を自分で選び、それぞれと個別に契約を結ばなくてはいけない。ある意味、自由度が高いという利点がサ高住にあるといえる。

 自己管理ができ、自立して生活できる入居者には、必要のないサービスを受けないことによって出費を抑えられる、自分の好きな事業者を選べるなど、かえって都合のよい面があるだろう。

 しかし、「安い有料老人ホーム」と思ってサ高住に入居し、有料老人ホームと同じようなサービスを期待している人にとっては、「何もやってくれない」「こんなところだとは思わなかった」という不満の種になりかねない要素をはらんでいる。サービスの提供態勢については物件によって千差万別のため、入居を検討する前に必ず確認する必要がある。サ高住の多くが賃貸住宅であることを忘れてはいけない。

 米沢さんが打ち明ける。

「厚生労働省の人から、『高齢者向けの住まいのセミナーの際は、サービス付き高齢者向け住宅は“みなさんが思っているようなサービスはない”住宅ですよ、と説明してください』と言われたことがあります。一般の人はサービス付きという言葉の響きから、さぞかし手厚いサービスが付いていると思ってしまう。しかし、必須なのは二つのサービスだけで介護サービスなどほかのサービスは別契約になります。それらのサービスは住宅に付いているわけではないのです」

 サ高住は運営母体もさまざまだ。

 登録事業者は約半数を株式会社が占めており、医療法人、有限会社、社会福祉法人などと続いている。業種は介護系、医療系をはじめ、不動産、建設、ハウスメーカーなどもある。

 一概にはいえないが、高齢者の介護や医療などに携わってきた経験が豊富な事業者が運営するサ高住は、ひとつの安心材料になるようだ。

「特別養護老人ホームを運営している社会福祉法人、有料老人ホームをきちんと運営している実績のある企業などが手がけるサ高住は、蓄積されたノウハウが反映される可能性が高いでしょう。また、医療法人の場合、介護事業と医療事業を手がければ介護報酬と診療報酬の両方が収入源になるため、家賃は低めでいいというサ高住も登場してきています」(米沢さん)

週刊朝日 2014年10月10日号より抜粋