安倍政権がもくろむ原発救済案

 電力需給のピークを超えた9月に入り、電力業界に“異変”が起きた。関西電力の美浜原発1、2号機や九州電力の玄海原発1号機などで廃炉が検討されていると報じられたのだ。

 これらはいずれも築40年前後の老朽原発。原子力資料情報室の伴英幸氏がこう解説する。

「福島第一原発の事故を受けた制度改正で原発の運転期間は原則40年とされ、それを超えて運転する場合は追加の安全対策に巨額の投資が必要となった。古い世代の原発は発電容量も小さく、コスト的にも元がとれないので廃炉にせざるを得なかったのでしょう」

 これまで原発輸出や再稼働に前のめりだった安倍政権下では珍しい動きだ。

 ところがその裏では、政府による“原発救済計画”が、着々と進行しつつあった。

 その舞台は今後の原子力政策を検討する経済産業省の原子力小委員会だ。

 8月21日の第5回の会合で、委員の一人で住友商事相談役の岡素之氏が、こう力説した。

「電力会社は総括原価方式を採用し、40年、60年と長期的視点にたったオペレーションを前提として原子力発電事業をやっていたわけでありますが、ここで環境が激変した。その多くは国の制度改定によるところが大きいわけですから、その激変緩和策をしっかりと国が考えるべきだと思います」

 ここで言う“激変”とは、現在、進行している電力システム改革のことを指しているのだろう。

「電力市場を完全に自由化します。2020年、東京でオリンピック選手たちが競い合う頃には、日本の電力市場は、発送電を分離し、発電、小売りとも完全に競争的な市場になっています」

 今年1月、ダボス会議でこう高らかに宣言した安倍首相。6月には電力小売りの全面自由化を柱とする改正電気事業法を国会で成立させた。16年には、家庭向け電力の自由化が予定されており、消費者は電力会社を自由に選べるようになる。

 18年以降には料金規制が撤廃され、これまで総括原価方式で決められてきた電力価格が、ライバル企業との価格競争にさらされるようになるのだ。

 原発のコスト計算に詳しい立命館大学の大島堅一教授がこう解説する。

「電力会社はこれまで総括原価方式によって、原発の新規建設や廃炉などにかかる巨額のコストを電力料金に上乗せして消費者に請求してきた。ところが電力自由化後は、価格競争が生じ、電気料金にコストを上乗せできなくなる可能性があるのです」

 廃炉の費用は、1基あたり数百億円とも、1千億円を超えるとも言われる。また、廃炉の際には発電設備や核燃料の資産価値が一度に失われて大きな損失が生じ、経営に大きなダメージとなる。

 昨年10月には、この損失を複数年に分割し、電気料金に上乗せして処理できる救済制度も決まったが、この制度も一時しのぎで、自由化後は通用しなくなってしまうのだ。原子力小委の中でも、経産省の畠山陽二郎原子力政策課長がこう危惧していた。

「そもそもこの制度自体、料金規制がなくなると使えなくなる」

 電力自由化の前に、是が非でも新たな救済策が必要、というわけだ。

 経産省が作成した配布資料では救済策について、〈速やかに検討し、可及的速やかに施策を実行に移す必要がある〉と、「速やかに」を2回も重ねて強調されていた。「原子力ムラ」の焦りが透けて見える。

 原子力小委のメンバーの一人でもある前出の伴氏がこう語る。

「経産省が選んだ20人の委員で原発維持に批判的なのは私を含めた数名にすぎず、電力会社幹部なども『専門委員』として出席している。発言は3分以内に制限され、委員同士の討論になることもほとんどない。3.11前と同じ手法で、事実上、『原子力ムラ』の意向に沿って原発を維持するための制度を考える会になってしまっている」

(本誌・小泉耕平)

週刊朝日 2014年10月10日号より抜粋

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