1993年に「新加勢大周」として芸能界デビューし、のちに改名したタレントの坂本一生さん。最近は、タレント業よりも便利屋の仕事が本業になっている。
8月下旬、坂本さんの仕事に同行した。
東京・浅草でテナント業を営む60代の男性からの依頼。マンション1階にある冷蔵庫を4階まで運び、いま4階にある冷蔵庫は回収してほしいという。
「引っ越し屋さんではやってくれませんからね、僕たち便利屋の出番です」
2台の冷蔵庫はどちらも2ドアの中型のもの。
「もっと大型のものを想定してましたからね、ちょっと拍子抜けです」
と笑う。2人で軽々と持ち上げ、階段を上り下り、あっという間に解決した。
「もっとすごいところを見せたかったんだけどなぁ」
と、坂本さんは言うが、依頼主の男性は、
「重くてとてもムリだったから、助かりましたよ」
さらにその奥さんが、
「テレビに出てた方よね。イケメンぞろいの便利屋さんなのかしら」
と、感心している。
坂本さんにはいろいろな依頼があるが、ちょっとロマンチックな依頼が印象に残っている。2012年の金環日食の日。15年前、この日の午前10時に、お台場の埠頭で再会する約束をしたカップルがいた。男性側が行けなくなったので、代わりに手紙を渡しに行ってほしいという依頼だ。
坂本さんが埠頭で待っていると、大きな白いストローハット、白のワンピース、白いパンプスを履いた40歳前後の上品そうな女性が歩いてきた。
「最初は半信半疑だったのですが、『○○さんですか?』と声をかけると、驚いた様子でうなずきました」
坂本さんは彼女に手紙を差し出した。
「うっすら涙を浮かべながら、ひとこと小さな声で『ありがとうございます』と言って、日差しの中に去っていきました。なんだか夢を見てるみたいでしたね」
なぜ会えなかったかは、坂本さんは知らない。
「気になりますけど、手紙を渡すところまでが僕の仕事ですから」
それが、便利屋だ。
※週刊朝日 2014年9月19日号